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早世のマドンナたち⑥ 太地喜和子 親友カルーセル麻紀が見た水没死直前の予兆(4)

最後の舞台前に悟っていた“死期”

 太地喜和子は“最後の女優”である。単に役者の性別を分けただけでなく、世の中で唯一の高貴な職業が「女優」なのである。喜和子は誰よりも意識を高く持ち、すべてを芝居に捧げて死んでいった。没後20年──その凄味は風化することなく語られるべきだ。

映画の打ち上げで素っ裸に…

「蜷川さん、こないだ『水戸黄門』で公家の役をやっているのを観たわよ」

 太地喜和子は蜷川幸雄に向かって言った。今では「世界のニナガワ」と呼ばれる演出家であるが、79年当時の蜷川は、まだ俳優業と掛け持ちだった。

 そんな状態に、喜和子の辛らつな直言が続く。

「あんなヘタな演技を見てしまったら、演出家としてのダメ出しが聞けなくなるわ。頼むから役者は辞めてちょうだい」

 その年、蜷川は喜和子を主演とした「近松心中物語」の舞台を手掛けていた。妻子ある身の蜷川にとって、演出家の年収は100万にも満たないと思いつつ、この言葉を機に役者に見切りをつける。

 ここまでは蜷川の自伝にも綴られているが、実はもう1つの言葉がある。

「あんた1人ぐらい、私が食わせてあげるわよ」

 決して色恋の仲ではないが、喜和子は蜷川の「演出家の才能」を見抜き、豪胆に言った。

 さてこの劇中、相手役の平幹二朗と手を取り合う直前まで、楽屋に置いた氷水に両手を浸けている。

「雪の中の心中だから冷え切っているはず。平さんが私の手を握った時、冷たいほうが気持ちが通じるでしょ」

 平然と言ってのけ、また実践してみせる。蜷川は、くすぶっていた役者への未練を完全に断ち切った。

 もう1人、84年に喜和子をNHKのドラマに招いた和田勉とも「一筋縄ではいかない出会い」だった。和田はそれまで、世の中で最も嫌いな女優が喜和子だったと言う。それでも、この役には喜和子しかいないと、渋谷の日本料理店の個室で待ち合わせる。

 そこにいたのは男物の着物をはおり、昼間から飲んだくれている豪快な女だった。

「和田さん、あたしがわかった? あたしはね、男でも女でもない、役者なんだぜ」

 つられてガハハと笑った和田は、喜和子との“心中”を決めた。そして「心中宵庚申」(84年)、「おさんの恋」(85年)、「但馬屋のお夏」(86年)と、3年連続で喜和子を起用する。後年、和田は喜和子を〈役者という病気〉と評している。

 ピンク映画の重鎮である俳優・下元史朗は、役名のない「村の青年たち」の1人ではあったが、喜和子と同じスクリーンに出た。

「喜和子さんはホテル、僕らは民宿に泊まるんですけど、最後は一緒になって打ち上げをやってくれたんですよ。そこで僕が調子に乗ってストリップをやり出したら、喜和子さんはお尻に1万円札を突っ込んでくれた。それだけじゃなく、自分もやると言ってスッポンポンになりましたから」

 その映画は、9年ぶりに主演女優となった「火まつり」(85年/シネセゾン)のこと。三重・熊野を舞台に、古代の神話を現代に置き換えた幻想的なストーリーである。監督の柳町光男は、女神のようなヒロインには喜和子しか考えられなかったと言う。

「僕らの学生時代から、新藤兼人監督の『藪の中の黒猫』(68年/東宝)や、文学座の数々の公演で伝説的な女優になっていた。彼女のケラケラと笑う顔は、シャーマン(神に仕える者)を思わせる役にぴったりでした」

 柳町と脚本の中上健次が考えた役名は「基視子(キミコ)」である。それは「卑弥呼(ヒミコ)」の読みをイメージしてのことだった。やがて役名は、喜和子の身に“言霊(ことだま)”をもたらすようになった──。

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