社会

知られざるニッポン秘薬・伝統薬めぐり(3)刀傷も白内障も治す特効薬

 富山の立山連峰にはツキノワグマが数多く生息している。この熊の胆のうを乾燥させた、通称「クマノイ」は古くから妙薬ともてはやされた。日本の伝統薬に詳しく「妙薬探訪」(徳間文庫)の著書もある医療ジャーナリストの笹川伸雄氏がこう説明する。

「古来から、ギリシャで“万能薬”として使われていました。それがシルクロードを渡って中国へ運ばれて『熊胆』と呼ばれるようになり、日本には奈良時代、遣唐使によって伝わったと言われています。庶民に広がったのは江戸時代に入ってから。江戸の医者・後藤艮山(こんざん)が丸薬として製造し難病の治療に用い、その抜群の効果から、江戸での人気が沸騰しました」

 しかし、熊の胆のうは1頭から1個しか取れない希少品。庶民には高嶺の花だった。大名や豪商が競うように買い求めたことで、まがい物やその作り方までもが出回るほどだった。

「町人学者の木村孔恭(こうきょう)の著と言われている『日本山海名産図会』は、漁法ならびに食品の製造法を著した全5巻の書。この中に、植物を用いたニセの熊胆の作り方が記されています」(笹川氏)

 熊胆の主成分は「ウルソデオキシコール酸」。消化機能や肝機能を改善したり、胆汁の分泌を促進する利胆薬などとして幅広く使用されていたが、最近では、C型肝炎の治療にも効果を発揮している。

 しかし現在、ワシントン条約により、たとえ手土産でも、熊の胆のう成分を含んだ製品は輸入が禁止されている。国内での熊の捕獲量には限りがある。それゆえ、薬事法でも希少な熊胆の代替品として他の動物胆(牛など)の使用を認め、パッケージに熊の絵の使用も認めている。その希少な熊胆を使用しているのが、富山市の製薬会社キョクトウの「複方熊胆円」だ。「複方」とは、「熊胆」と「牛胆」の2種を含有する意。消化器系全体の働きを活発にするとあって、サラリーマンには二日酔い対策に利用されることが多いようだ。

 富山のお隣、信州もまた伝統薬の本場と言える。御嶽山に集う修験者が創製したというものに、キハダ(オウバク)を原料とした「百草丸」がある。かつては長野県内の多くのメーカーが作っていたが、今では木祖村の日野製薬、王滝村の長野県製薬など、数社のみになってしまった。

 信州を代表する名所といえば善光寺。天文12年(1543)の創業以来、参拝客に長らく好評を博してきたのが、笠原十兵衛薬局の「雲切目薬」だ。発売当初は軟膏状で、刀傷、擦り傷、咳止め、痔など何にでも使われた万能薬だった。

 十八代店主の笠原久美子氏が伝承する。

「目につけると目を開けていられないくらい染みて涙が出ました。しかしそのあと“雲が切れるように”すっきり。明治時代からは蒸留水で何倍にも溶かして、なるべく染みない目薬を目指したのですが、まだまだものすごく染みる。この薬だけで白内障が治った人もいて、特効薬と言われました」

 しかし、昭和の時代に入って薬事法が改正されると、この「元祖雲切目薬」は製造中止に追い込まれる。復活したのは平成10年(1998)、長野オリンピックの年だった。

「オウバクを主成分にした、新しい『雲切目薬』を開発しました。健康な目には染みませんが、炎症等の症状を持つ人には染みると思います。染みるうちは使い、染みなくなったら治ったということですね」(笠原氏)

 パソコンやスマホによる疲れ目にも効くと評判だ。

カテゴリー: 社会   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    「男の人からこの匂いがしたら、私、惚れちゃいます!」 弥生みづきが絶賛!ひと塗りで女性を翻弄させる魅惑の香水がヤバイ…!

    Sponsored

    4月からの新生活もスタートし、若い社員たちも入社する季節だが、「いい歳なのに長年彼女がいない」「人生で一回くらいはセカンドパートナーが欲しい」「妻に魅力を感じなくなり、娘からはそっぽを向かれている」といった事情から、キャバクラ通いやマッチン…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , |

    今永昇太「メジャー30球団でトップ」快投続きで新人王どころか「歴史的快挙」の現実味

    カブス・今永昇太が今季、歴史的快挙を成し遂げるのかもしれないと、話題になり始めている。今永は現地5月1日のメッツ戦(シティ・フィールド)に先発登板し、7回3安打7奪三振の快投。開幕から無傷の5連勝を飾った。防御率は0.78となり、試合終了時…

    カテゴリー: スポーツ|タグ: , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
「キスしてる?」質問にフジテレビ・井上清華が衝撃「赤面もじもじ返答」の「まさか!」
2
岡田監督と不協和音!阪神・佐藤輝明「怒りの2軍落ち」で問題視された「試合に向かう姿勢」
3
ロッテ・佐々木朗希「日本ハムに3対1の電撃トレード」謎の投稿が激論に!
4
広島・新井良太2軍コーチ「地元女子アナと結婚」までの「夜の歓楽街」寂しい活動
5
「昔のヒット作」新シリーズが日本ではもうウケなくなったワケ/大高宏雄の「映画一直線」