──基本的には思いつきで始めたことにだんだんリアリティをつけていく作業だったんですかね。胸の7つの傷にしても何も考えないでつけてたみたいだし。
武論尊 あれは完全にファッションとして、「つけといてくれ」って。それがあとで、「何だ、シンがつけたことにすりゃいいじゃん!」ってなった時、俺は天才的だなと思って自分で惚れぼれしたもん!
──ダハハハハ! その手があったかって(笑)。
武論尊 しかも「俺を愛してるって言ってみろ!」ってユリアに言いながら指を刺していく。ゾクゾクして書いたね。「うわ、俺うまいわ!」と思って。その繰り返しだから、何の伏線じゃなく書いたのが、あとで使えるんですよ。だからあとづけの天才ですよね。
──嘘うまいですよね。
武論尊 うまいですよ! だから度胸があれば結婚詐欺師やってますね(キッパリ)。度胸がないだけで。
──兄弟の設定とかもあとづけで作り込んでいって。
武論尊 だからホントに話に困って。シンのシリーズが終わって、ジャギっていうのが出た瞬間にまた少し流れが変わったんですよ。ケンシロウの兄貴が出てきたことで。そうするとケンシロウって名前だから上に3人兄ちゃんがいる。ジャギがいて、あと2人いるはずだっていうことで、あとづけでトキとラオウを作ったわけ。それが化けてくるわけだから、それも含めて俺の運なのか才能なのかよくわからないけど、最終的にはそれがうまくハマッてっちゃうっていう。
──好きなキャラはラオウだって言われてますよね。
武論尊 いや、ジャギが一番好きなんですよ。等身大でいえば。似てるでしょ?
──ダハハハ! そっち!
武論尊 一番書いてて楽しいんですよ。人間らしいでしょ? だから一番好きです。ラオウはもう究極の男だしね。で、ケンシロウは一番書けないんですよ。
──人間味ないですしね。
武論尊 スーパーヒーローってやっぱりセリフもなくなるし、自分から仕掛けるとチンピラになっちゃうからリアクションの芝居しかできないんで、つまんないんですよ。ところがラオウなんて自分から仕掛けるのだって強烈だから。リアクションの芝居ってなかなか難しくて、だからケンシロウって最後はやっぱり高倉健になっちゃうんですよ。
──いまボクの頭に浮かんでたのも高倉健でした。
武論尊 だから周りが魅力的で、そのおかげで主人公が立ってくみたいな作り方しかないんで。主人公を作るのは一番苦手ですね。
──一番ノッて書いてたのがその辺りの時期ですか。
武論尊 そうですね。4兄弟の闘いになって、そのへんが一番書いてておもしろかったんじゃないですかね。その頃はほとんど書き直しはなかったです。だから原君にだけ仕事させといて、堀江君と2人でよく飲みに行ってましたね。
──そういう時って仕事の話はしないんですか?
武論尊 とりあえず六本木でおネエちゃんのケツ追いかけてただけですね。あいつがお姉さんで俺が妹で、姉妹を追いかけてました。
プロインタビュアー 吉田豪