ジョーンズの出塁率と存在感
野村監督の代名詞が選手の再生です。南海時代に江夏豊さんを先発からリリーフ投手へと転向させ、みごと成功させた実績もあります。
楽天就任当時も、4番不在だったチームで山崎武司をリーダーに抜擢。絶対的な4番として楽天の打撃陣の要となるまでに鍛え上げました。もともと、山崎はオリックスから戦力外通告を受けた選手でしたが、楽天に移籍して2年目に野村さんと出会い、ホームランは狙って打つものであり、数を振って作り出すものではないという指導により覚醒。07年には108打点を稼ぐなど成長し、主将としてチームをまとめさせることにも成功しました。
しかし、何よりも野村さんが楽天時代に行った一番の功績は、マスコミを使った選手たちの刺激です。思い浮かぶのが「ボヤキ」でしょう。連日テレビで取り上げられたあのボヤキも、実は楽天の選手たちに注目を集めるための考えがあってこそ。あえて選手の名前をあげてボヤくことで世間の目を向けさせ、プレッシャーをかけさせる。野村さんは直に野球理論の教育をするだけではなく、メディアを味方にした指導も行っていました。そのあらゆる方策の成果があの09年のCS進出だったのです。
一方の星野さんは、闘将と言われるほど勝負にこだわる監督。選手指導でも、長期的な選手育成を考えて、1年目はじっくりと選手を見て、2年目、3年目で伸ばしていく。中日、阪神時代に、ともに就任2年目で優勝したのは、1年目にしっかりチームの戦力分析をした結果。ジョーンズ、マギーという主軸2人の加入も、星野さんが楽天で足りない部分をしっかり見定めていたからでしょう。
特に今年はジョーンズの存在が大きかったですね。彼は打率こそ2割4分4厘とアピールは少ないですが、パ・リーグで5本の指に入るほど出塁率が高いのです。その要因は、とにかく四死球が多く、その数115はセ・パ両リーグあわせてダントツの成績です。
さらに彼には、もう一つ大きな武器があります。それが「存在感」です。
7月4日に行われたロッテ戦で、ベンチ前に立つ星野さんのお尻をポンと叩いていた場面を見て、僕はチームにおける彼の重要性を痛感しました。
皆さんもよく考えてみてください。あの厳しい星野さんのお尻にタッチできる日本人選手がはたしてプロ野球界にいるのでしょうか。成績は低くても、彼が楽天のムードメーカーとして監督陣の間にうまくクッションとして入ったことで、チームの選手と首脳陣との溝が中和されていたのは間違いありません。
田尾さんによる一からのチーム作り、野村さんによる田中投手をはじめとした若手の育成、ブラウンの聖澤など俊足選手の起用、そして星野さんの的確な補強と守る意識。楽天の優勝は、そういった全ての要素が花開いた瞬間でもあったのです。
(数字は全て10月2日現在)