リハーサルの最中に起こった事件がある。スタジオに暴漢が乱入したと思ったら、取り押さえた警備員にガタガタと物騒な音を立てながら退去させられる。
「ああ、久しぶりだな」
明石家さんまと並んで見ていたタモリは、まるで蚊でも飛んできたくらいに平然とつぶやく。そこには動揺のかけらも感じられなかったという。
さらに川本が驚いたのは、本番中のこんなシーンである。
「素人参加のコーナーで、マジシャンみたいな男がタモリさんに手錠をかけたんですね。しかも、そのまま鍵を飲みこんじゃって、周りは大騒ぎですよ」
ここでも声を荒らげるスタッフらと対照的に、タモリはあわてたそぶりを見せない。そしてトラブルを回避するためいったんCMに入ると、思いがけない救世主が現れた。
「アルタの警備の方がモニターをしばらく見つめ『あの手錠って、地下のおもちゃ屋に置いてなかったかな?』と気づいたんです」
急いでその店で鍵を手配し、CM明けには無事にタモリの両腕は解放されていた。その表情には、アクシデントを誰よりも喜んでいる子供のような笑みが浮かんでいたという。
2人が出演した2年半の間に「最も感動した場面」を聞くと、同じ答えが返ってきた。
「ハリウッド俳優のロビン・ウィリアムズがエンディング近くのゲストに来た回ですね」
個性派の俳優であるロビンは突如、象のものまねをやり始める。これにタモリが鳥の模写で応じ、ロビンが同じく鳥を、ならばとタモリは猿を、さらに2人して中国人になってみたりと即興の掛け合いが続く。
「もう出演者の全員で見入っちゃいました。本気になったタモリさんを間近にして『やばいやばい!』って感じでしたね。それでいて最後はサラリと『明日もまた見てくれるかな?』に戻るのがタモリさんらしいところ」
1度も怒られたことはなかった──2人は尊敬の念を今も持ち続けている。
そんな「あさりど」と同じく、94年に放送作家として参加した元祖爆笑王も共通した感想だ。
「3年ほど参加しましたけど、僕らスタッフも1回も怒られたことがない。あるディレクターなんて、寝坊して現場に行かなかったことがあるのに、それでもタモリさんは怒らなかったからビックリしましたね」
最初に担当したのは、視聴者から送られてきた心霊写真のコーナーだった。続けて関根勤のだじゃれのコーナーを担当するが、思わぬ障壁が待ち受ける。
「ボツハガキをヤギに食べさせるはずが、ちっとも食べてくれない。僕らは生放送でヒヤヒヤしているんですが、ああいう時に『おかしいな』とか言ってくれるタモリさんのフォローには本当に救われましたね」
初対面の相手ともトークを回せる「引き出しの多さ」にはいつも舌を巻いた。今後、2度と現れない司会者だろうと断言できる。