社会

ウチの猫がガンになりました(3)迷い猫への偏愛…スヌーピーのぬいぐるみには白く長い「形見のひげ」が

 妻のゆっちゃんの枕元には、小さなスヌーピーのぬいぐるみがある。胸にはファスナーがついていて、この中にはジュテの白くて長いひげが一本入っている。ジュテがこの世からいなくなった後も、いつもそばにいてほしいと、形見にしているものだ。そのことを後から聞いて、ゆっちゃんと目を合わせることができなかった。痛いほど気持ちがわかった。

 我々夫婦には子供がいない。だが、ジュテへの思いは、子供のようにかわいがったというありふれたものではなかった。今風に言えば、ネグレクト。お互いに生い立ちが似ていることが、ジュテへの偏愛につながっていた。

 僕は生まれてすぐに両親が離婚し、二人とも生まれたばかりの赤子の前から消えてしまった。親に育てられたことも、顔すら見たこともないのだ。ゆっちゃんは父親が高名な画家だったが、そりの悪い両親がバラバラに生活し、ほったらかしで育てられた。両親の愛情は受けたが、温もりのない孤独な幼少期を過ごした。

 どちらも親に見放され、捨てられた境遇ということだが、そのことは言葉にしなくても、なんとなくわかり合うことができた。

 そんな夫婦の前にやってきたのが、迷(まよ)い子、捨て子のジュテだった。ゆっちゃんはジュテを、ネグレクトによる傷と孤独を埋める存在として、かわいがっていたのだと思う。僕の場合はウェットすぎるのを敢えて避けるなら、捨て子同士、こいつをなんとかしてやりたい、ということだったろうか。

 S動物病院で、ジュテの病状を聞かされた。そのことをゆっちゃんに、どう伝えればいいのか。診察料の支払いはクレジットカードで済ませるのだが、暗証番号を押したことを忘れ、「番号は?」と聞き返したらしい。それぐらい動揺してしまっていた。

 家の玄関を開けると、「どうだった?」と声がした。やはりゆっちゃんも、気が気じゃなかったようだ。

 ひとまず気を取り直し、リビングのテーブルにK先生が書いてくれた用紙を広げ、僕なりに順序だてて検査、病院について説明した。

「やっぱり、ガン?」

「いや、1週間待たないとわからないよ」

「大きなシコリって、本当のガンならそんなに大きくならないんじゃない。脂肪の塊とか」

「人の場合、そういうこともあると思うけどね」

 その先はあまり言葉にならない。

「どうする? どこの病院で診てもらうのがいいのかしら」

「うちから近い病院がいいんじゃないか」

「そうね、先生に紹介してもらえるの?」

「それはすぐにやってくれると思う」

 まあ、それ以外に選択肢はなかった。

「ジュテはどうしてる?」

 ゆっちゃんは、2階で寝ているジュテを見に、上がって行った。

(峯田淳/コラムニスト)

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