芸能

宮崎駿監督「オオカミ少年発言」にファンが歓喜した「引退撤回」の歴史/壮絶「芸能スキャンダル会見」秘史

「何度もやめると言ってきた人間ですが、今回は本気です」

 13年9月6日、アニメ界の巨匠で「スタジオジブリ」の宮崎駿監督が、都内のホテルで記者会見を開き、こう言って引退を表明した。これまで幾度となく引退をほのめかしてきた宮崎氏だったが、この日の会見には世界13か国から約600人の報道陣が集結。会見場には70台を超えるテレビカメラがびっしりと並び、物々しい雰囲気に包まれた。

 会見に先立ち、報道陣に配布された「公式引退の辞」には「作品と作品の間がずんずん空いていくのを、どうすることもできませんでした。要するにノロマになっていくばかりでした」とあり、「次は6年か、7年か…。それではスタジオがもちませんし、僕の70代は、というより持ち時間は使い果たされてしまいます」として「体力の限界」が強調されていた。

 確かに全盛期時代は1年おきだった新作発表のペースが、「千と千尋の神隠し」(01年)から次作「ハウルの動く城」までは3年、さらに「崖の上のポニョ」発表までは、そこから4年の歳月を要し、公開中だった「風立ちぬ」は、前作「崖の上のポニョ」から5年の歳月を経て完成したことになる。

 映画監督である前に、生粋のアニメーターを自認する宮崎氏。だからこそ、

「年々、確実に集中できる時間が減っている。『ポニョ』の時と比べ、机を離れているのが30分は早くなった」

 として、自身のスタイルを貫けなくなったことが、今回の決断に繋がったと語った。

 最後の長編となった「風立ちぬ」は、実在した戦闘機「零戦」の物語。会見前の6月に行われた試写会では、客席から自分の映画を見て「初めて涙を流した」という宮崎氏。ジブリの今後については「やっと重しがなくなる」としながらも、

「僕らは30歳の時にも40歳の時にも『やっていいんだったら何でもやるぞ』という覚悟で、いろいろな企画をやってきた。若いスタッフがそれを持っているかどうかにかかっていると思います。子供たちに、この世は生きるに値するんだと伝えることが、自分たちの仕事の根幹にならなければいけないと思ってきました。それは今も変わりません」

 そう語る宮崎監督の姿に、会見場にいる誰もが「今回ばかりは本気なのでは」と感じたものである。

 ところが、それから3年後の16年11月。NHKの番組内で映し出されたのは「長編企画 覚書」と書かれた書類を提示する宮崎監督の姿。そこには「2019年完成」の文字が見て取れた。

 結果、17年2月には、宮崎監督による長編映画制作復帰を公表。通常、世に言うところの「オオカミ少年発言」は疎まれるものだが、この時ばかりは「本気撤回」を歓迎したのである。

(山川敦司)

1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。

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