さて、1月に開幕予定の王将戦でマッチアップするのは、あまたの最年少記録ホルダー・藤井聡太五冠(20)だ。新旧天才同士の対局について、先崎九段は形勢をこう分析する。
「羽生さんが7番勝負で勝ち越すのは相当大変です。2人の年齢差は32歳。若い棋士がベテランを退けてきた、将棋界の摂理から言えば藤井さんが断然有利です。AIによる研究勝負でも一歩先を進んでいる。そのため、羽生さんはなんとか終盤勝負に持ち込む必要があります。それでも、無類の終盤力を誇る藤井さんに勝てるかどうか‥‥」
これまでの通算対戦成績は1勝6敗。直近の対局となった9月23日の「JTプロ公式戦」では、後手の羽生が横歩取りに誘導しながら敗戦した。大盤解説を務めた屋敷氏が振り返る。
「互いの持ち時間は10分と、1分単位で5回ずつ取れる考慮時間のみという“超早指し”ルール。それだけに、中盤は1手ミスが出るだけで形勢が大きく傾きかねないスリリングな将棋でした。羽生さんが青野流への対抗手を指しながらも、藤井さんにうまく対応されてしまいました」
短期決戦では藤井に軍配が上がったが、互いに持ち時間8時間の2日制で戦うタイトル戦であれば、羽生にも勝機は十分にあるのではないだろうか。
「唯一の白星を挙げたのが20年の王将リーグ戦。そこで羽生さんが誘導した戦型こそが横歩取りでした。この時も藤井さんが青野流で迎え撃ちましたが、その読みをさらに凌駕する指し手で翻弄しました。藤井さんのAIを駆使した研究は“傾向”レベルではなく、はっきりと特定の手順を想定している。一方、少しでも定跡からズレてしまうとAIの範疇から離れてしまう。つまり、AIが介在しない土俵に引き込めば勝てるチャンスがあります」(将棋ライター)
最後に、屋敷九段がエールを送る。
「羽生さんの強さに陰りはありません。先の王将リーグ最終戦でも、豊島将之九段(32)相手に大差を付けて勝利しました。急いで勝ちにいかずに、ジリジリと外堀を埋めていく指し回しは流石の一言に尽きます。ぜひ、藤井さん相手にも持てる力を発揮して、タイトル戦を盛り上げていただきたい」
くしくも、12月8日の「第48期棋王戦コナミグループ杯挑戦者決定トーナメント敗者復活戦」で、同カードの対局が予定されている。前哨戦で弾みをつけて、しばらく足踏みが続いた、タイトル通算100期目を掴み取ってほしい。