芸能

没後25年 未公開取材メモで明かされる美空ひばりの「光と孤独」(8)通夜にも密葬にも姿は見せず

 この逃避行は小林にとって自分を見つめ直すのにいい機会となったが、帰国後も「ひばりとの離婚」はまだ余震として続いていた。世間は「映画スターの小林旭」ではなく「ひばりと別れた亭主」として彼を見るようになっていた。

 そんな中、67年、日活を辞めた小林は女優の青山京子(78)と結婚し、ゴルフ場経営に乗り出す。しかし4年後、経営に失敗し、倒産に追い込まれる。

 当時1億4000万円と報じられた借金は、実は14億円だった。夫人との間に3児が生まれ、幸せそのものだった一家の日々は暗転した。

「もう毎日、家に帰ると女房と顔を突き合わせて金策の話ばかりしていた。とにかく1000円札が一枚もなくなるぐらいセコく苦しい生活を余儀なくされた。さすがの俺もシュンとなって頭を垂れたね」

 だが幸運にも、前年に出していた「昔の名前で出ています」が300万枚を超える大ヒット。小林は喉が潰れて声が出なくなるほどステージをこなした。そしてこの1曲で巨額の負債を返すメドが立った。

 そんな彼の脳裏に、忘れることのできない夜が今も鮮やかに焼き付いている。25年前、ひばりが亡くなった夜(89年6月24日)、小林は東京・六本木の酒場で飲んでいた。

「彼女が亡くなったまさにその頃から雨が降りだしてね。訃報を聞いて、酒を飲むピッチが上がった。急激にワーッと飲んで、雨に打たれて家に帰ったのは朝の6時半だった‥‥」

 だが小林は通夜にも密葬にも姿を見せなかった。沈黙を破って姿を現したのは、ひばりが亡くなって間もなく1年となる頃だった。作曲家・船村徹のパーティに出席した彼は、ひばりについて語り出した。

「いつの間にか人の前でしゃべれるようになりました。時の流れというもの‥‥です。俺の腹の下でいっぺん寝たことのある女が、死んでもういなくなりました。その彼女が、すばらしい歌をこの世に残してくれました」

 こう言ったあとに突然、ひばりの名曲「みだれ髪」を歌い始めたのだ。ざわついていた会場が、水を打ったように静まり返った。

「彼女とのことは現実だったのか、夢だったのか‥‥と思うけど、今も毎日、ひとりでさ、この胸の中に思い出して、両手を合わせているよ」

 インタビューの終わり近く、小林はつぶやくように言った。年輪を重ねた懐の深さが、その表情に浮かんだ。

◆ノンフィクションライター・綾野まさる

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    「男の人からこの匂いがしたら、私、惚れちゃいます!」 弥生みづきが絶賛!ひと塗りで女性を翻弄させる魅惑の香水がヤバイ…!

    Sponsored

    4月からの新生活もスタートし、若い社員たちも入社する季節だが、「いい歳なのに長年彼女がいない」「人生で一回くらいはセカンドパートナーが欲しい」「妻に魅力を感じなくなり、娘からはそっぽを向かれている」といった事情から、キャバクラ通いやマッチン…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , |

    今永昇太「メジャー30球団でトップ」快投続きで新人王どころか「歴史的快挙」の現実味

    カブス・今永昇太が今季、歴史的快挙を成し遂げるのかもしれないと、話題になり始めている。今永は現地5月1日のメッツ戦(シティ・フィールド)に先発登板し、7回3安打7奪三振の快投。開幕から無傷の5連勝を飾った。防御率は0.78となり、試合終了時…

    カテゴリー: スポーツ|タグ: , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
息子の一生の汚点になる!〝悪事のデパート〟水原一平が砕いた少年の夢に母親が絶句
2
可愛かずみ「元カレのマンションから飛び降り死」から26年でも「残されたままの謎」
3
打率1割未満でまた2軍落ち…日本ハム・清宮幸太郎に高木豊が「すぐ解決できる」打撃開眼法を伝授
4
世の女性は「朝ドラ【虎に翼】は面白いですか?」と男性に質問してみるべし!それで「判明すること」は…
5
ドロ沼の西武ライオンズに「松坂大輔監督」待望論が浮上する「ヤバイ観客動員数」