今年のメジャーリーグを見る楽しみが増えた。阪神の藤浪晋太郎がポスティングシステムを利用して、アスレチックス入団が決まった。年俸は約4億2000万円で、出来高も含めると今季の4900万円から約10倍になるという。ここ4年で計7勝と完全にくすぶっていただけに、成績から考えると、破格の条件でメジャー契約を結べた。阪神入団以来、ずっと見守ってきた選手だけに、アメリカでどんな成績を残すか興味がある。
成功するかどうかは、五分五分かな。持っている力は大リーグ相手でも十分に通用すると思うけど、藤浪の場合は予測不能のところがある。日本でも4イニング目ぐらいまで完璧な投球をしていても、1球おかしくなるとガタガタになることがよくあった。1球ぐらい抜け球があっても気にしなければいいんやけど、フォームのことなど、あれこれ考えすぎてしまうんやろな。バッターに当てたらアカンという優しい性格も災いしているかもしれん。打者からすると抜け球がある投手はすごく怖いので、それも武器のひとつと考えたほうがいいんやけど。
ストレートの速さ、変化球の切れは、大谷となんら遜色ない。あとは強いメンタルとコントロール。プラス材料としては、アメリカのボールは日本より若干大きいらしいので、手の大きい藤浪にフィットする可能性はある。変化球もよく曲がると聞いているし、スライダー、フォークの威力も増すはず。メジャーの打者は日本より積極的にスイングしてくるタイプが多いから、ボール球を振って助けてくれることも多いやろ。コーナーを突くと考えずに、ある程度のところを狙って投げればいい。
契約で注目したいのは「1年契約」ということ。同じくポスティングシステムでレッドソックス入りした、オリックスの吉田正尚の5年契約のように、今の時代は複数年契約が多い。つまり、藤浪に関してはアスレチックス側もそこまで信用してはいないということで、ダメなら1年でクビになる。「どうせ1年契約だから今年で潰してしまってもいい」と、無茶な起用をされるかもしれん。でも、逆に考えたら1年契約のメリットもある。2年目以降に給料がポンと上がる可能性があるし、使わないと損なので登板機会もたくさんもらえる。アスレチックスの投手陣は手薄らしいから、アメリカンドリームをつかむチャンスは十分に転がっている。本人も1年で日本に帰ってくるつもりは毛頭ないはずや。
阪神時代は甲子園春夏連覇のエースとしてドラフト1位で入団。ルーキーから3年連続で2ケタ勝利を挙げながら、4年目以降は期待を裏切り続けた。大きな挫折を感じていたと思う。ほんまは今頃、阪神の大エースとしてWBCに選ばれないといけない男やった。本人にしかわからないプレッシャーを感じていたのだろうし、ケガもしていないのに2軍暮らしは屈辱でしかなかったはず。メジャー挑戦は人生の大勝負になる。認めてくれた阪神にも感謝しないといけない。
高校時代からのライバル、大谷はメジャーのスーパースターになった。エンゼルスとは同地区で対戦機会が多いのも何かの因縁やろな。会見では「全部敬遠してやります」と笑いを誘っていたが、並々ならぬ思いがあるはず。藤浪の意地とプライドをかけたマウンドが待ち遠しい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。