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超異色アニメに鳥肌が立った!荒ぶるジャズが観客ワシづかみ/大高宏雄の「映画一直線」

 邦画アニメーションの快進撃が止まらない。韓国でも大ヒットしている昨年来の「すずめの戸締まり」や「THE FIRST SLAM DUNK」などのビッグタイトルの話ではない。

 今年に入って、全く異色な邦画アニメがヒットしている。プロのジャズプレイヤーを目指す地方の若者を主人公にした「BLUE GIANT」だ。

 興行畑では口コミが効いて、息の長い作品のことを「腰が強い」という言い方をする。「BLUE GIANT」は、実に「腰が強い」。3月12日時点で、興収6億3000万円。この数字だけではピンとこないかもしれないが、200スクリーン規模で、ほぼ落ちのない興行が展開されているといえば、話は違ってくるだろう。

「少年ジャンプ」原作の、膨大な数の人たちの人気を下地にしたアニメではない。異空間でのバトルもなければ、強烈な歌が画面いっぱいに鳴り響くわけでもない。「推し活」キャラクターが、散りばめられてもいない。ジャズプレイヤーを目指すアニメだから、当然だ。では、何がウケているのか。

 言わずと知れた、ジャズである。ジャズがアニメ技術の粋を凝らした演奏シーンとして、画面上で爆発する。アニメの登場人物に合わせたプロの演奏家によるサックス、ピアノ、ドラムの音色が素晴らしい。華麗な色彩、自在のカメラアングルなど、3人組の演奏シーンには鳥肌が立つ。

 1970年代のある時代に、生でモダンジャズ演奏を聴いていた身とすれば、何か蘇ってくるものがあった。荒ぶる魂、高揚感、生きるエネルギーのようなものが渾然一体となった、何物かだ。

 主人公のサックス奏者・宮本大は行動力の男である。冒頭シーンでは一人、雪の中でテナーサックスを吹いている。この作品が人々の心をつかんでいくのは、苛烈な演奏シーンだけではない。全編を通じて、孤独に練習を積み上げていく大の姿が、絶えず二重写しになるからだ。

 自信満々の男で、プロへの道を一直線に進む。自信のほどが、少々鼻もちならないところもあるが、彼は人知れず努力している。尋常ではないほど、練習をしているのだ。それがあるから、演奏に自信を失う仲間への指摘も説得力が出てくる。

 宮本大には「昭和のヒーロー」のような趣がある。存在自体が眩しいのだ。何があろうと起ころうと、自身が信じた夢へと猪突猛進していく。行動力が並外れている。そのように生きることが難しい現代だから、共感の輪が広がるのだろう。

「昭和」的なヒーローは、アニメだから違和感なく受け入れられる気もした。実写作品だと、リアルな視点がどんどん入ってくる。嘘くさく見えてしまうのだ。しかし本作は、そうならない。

「BLUE GIANT」に、大いなるアニメの可能性を感じた。リアルな設定においても、リアルを飛び越えていく力だ。いかに古めかしい意匠、設定であろうが、それが今を生きるエネルギーとして、人々に何物かを強烈に与えていく。そう感じる。

(大高宏雄)

映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。新著「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2023年には32回目を迎える

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