20年7月、韓国にある慰安婦像が世界的な注目を集めた。女性像の前で土下座をしている銅像が、故・安倍晋三元総理に酷似しているとして、両国の政府首脳を巻き込む大問題に発展した。騒動から3年、韓国の慰安婦像をまとめた1冊が刊行されたのだが‥‥。
「出版に際して、市民団体などから抗議が来るのではないかと危惧していましたが、現時点でクレームなどは一切ありません。むしろSNSでは、好意的な感想が寄せられていて、うれしい限り。苦労して撮影したかいがありました」
こう話すのは7月10日に「慰安婦像大図鑑 韓国全土155像収録」(パブリブ)を上梓したライターの日野健志郎氏。韓国に何度も赴いては各地に建てられた慰安婦像のほぼすべてを取材した。
「慰安婦像と聞くと、在韓国日本大使館前に設置されたような、少女が椅子に腰かけるスタイルしかないと思っていたのですが、実際には様々なバリエーションがあります。また、夏には日よけの帽子をかぶっていたり、冬にはセーターやマフラーを着込んでいたりと、季節によって衣装にも変化が見られました」(前出・日野氏、以下同)
大図鑑をめくると、実に多彩な慰安婦像が確認できる。手のひらから無数の蝶が羽ばたいているものや、顔がなく前面すべてが銅板の鏡になっているもの、さらには上半身裸で乳房を丸だしにした老婆の像まで‥‥。同書の帯にあるように、奇抜なデザインが目白押しで、さながら「現代アートの展示会場」だ。
「個人的に衝撃を受けたのは、益山駅前の広場に設置された慰安婦像。立った状態で石碑に左手をかけているのですが、その足元を見ると15年に締結された慰安婦問題日韓合意文書を踏みつけていたのです。まるで少女の像が『ふざけた日韓合意なんか踏み壊してやる』と訴えているようでした」
そもそもこの企画がスタートしたのは18年。それまで何度も韓国を訪れては、廃墟やスラム街の写真を撮りためていた日野氏。出版社に写真集の企画を持ち込んだところ、
「話題になっている慰安婦像が面白いのでは?」
との提案を受けて、およそ2年かけて100体の慰安婦像を取材した。完成間近と思われた20年、コロナ禍に見舞われ、撮影の中断を余儀なくされる。
「残り約30像というところでした。しかし、コロナ禍の2年半で、例の〝土下座像〟をはじめ、慰安婦像が次々と建てられたことで、50カ所を回らなければいけなくなったのです」
それまでは鉄道やバスなどの公共交通機関を移動手段にしてきた日野氏は、コロナ禍が明けると一念発起。国際免許を取得して、慣れない交通ルールに戸惑いながらレンタカーで韓国全土を駆け回った。
「1週間で50カ所を回り、山奥など辺鄙な場所にある慰安婦像まで、すべてカバー。車の走行距離は2000キロに及びました。韓国のドライバーはみなスピードを出すのでそれにならっていたら、オービスのようなものに引っかかったのか、帰国後にレンタカー屋からスピード違反の罰金7000円の請求が‥‥。今となってはいい思い出です」
隣国のパブリックアートを巡るガイドブックとしても活用できそうだ。