社会

能登半島地震「悪夢の爪痕」〈6300人派遣でわかった自衛隊のジレンマ〉

 佐竹敬久秋田県知事は1月9日、被災地への自衛隊派遣について「少し後手後手だ」と批判、SNS上でも同様の市民の声が目に付くが、果たして実態はどうなのか。防衛問題研究家の桜林美佐氏に聞いた。

 自衛隊は隊員の派遣を逐次行い、9日の段階で約6300人が能登半島で支援活動を行っている。

 物資の輸送や行方不明者の捜索の他、炊き出しなどの食糧支援や仮設風呂での入浴支援など、その活動は多岐にわたる。特にこの季節、温かい食事や風呂を求める避難住民は多い。桜林氏が言う。

「陸上自衛隊には『野外炊具』という炊事専用車両があり、汁物や副食が付いた食事を200人分一度に作ることができます。食材は通常は自治体から提供される食材を使います。今回は自治体が機能していない所もあり、そこでは自衛隊の食材を使っているようで、予算制度上、後で費用を県や市に請求しなければならないと思います」

 このことからもわかるが、本分である国防のための装備を活用し、自衛隊は災害支援においても世界有数と呼ばれるようになっているのだ。また孤立地域に物資を届けるために、30〜40キロの荷物を背負って道なき山を徒歩で越えたりするのも、そうした日頃の訓練の賜物と言えるだろう。

 温かい食事を提供する一方で、当の隊員たちが食べるのは冷えたレーション(野戦食)だ。しかも現地で用を足す回数を極力減らすため、飲食量はごく少量にとどめているというから頭が下がる。しかし、そうまでしても政府と自衛隊に対する不満、批判はどうしても出てくるのが現状だ。

「まず派遣人数が比較される16年の熊本地震については、被災地である熊本に総監部や師団があったため、大人数の隊員がそこにいた、という背景があります。能登半島には分屯基地しかなく、規模感が違ってくるのは当然。主要な道路が分断されている中、自主派遣により、状況が判明するに従って、逐次投入を行っているのは適切な措置だろうと思います」(桜林氏)

「自主派遣」とはバイクやヘリを用いて偵察を行い、映像などをデータとして対策本部などに提供することを指すという。その上で、現地の受け入れ態勢などを鑑み派遣人数が決まるが、派遣待機している自衛官は現状、1万人超いるという。決して、出し惜しみしているわけではない‥‥。

「実際には、被災地での自衛隊の権限はほとんどありません。例えばガレキの除去ひとつにしても、勝手にやれば罪に問われる場合もあるんです。あくまで自衛隊は自治体のサポートです。ですので、その自治体の指令本部が地震や津波の影響で機能していなければ、『こういうことを要請してください』とリコメンドすることはあります」(桜林氏)

 ただし桜林氏は、やりたくてもできないという点でジレンマもあるだろう、とも語る。

「例えば地元の人に求められても、自治体からの要請がなければ、倒壊した家から物すら持ち出せませんから。心情的には、隊員たちはつらいことも多いはず。それに待機している隊員の方も、早く現地に駆けつけたい、という思いは強いと思います」

 能登空港の仮復旧が整った11日時点では2万人超の被災者が避難所生活を送り、地震被害の「爪痕」の大きさを感じさせる状況が続く。輸送機も活用できるようになった自衛隊の尽力に、今後も期待したい。

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