社台グループ、そしてノーザンファームなしには成り立たない、とさえ言える競馬界の現状。その発言力は有力騎手、厩舎、海外馬主、そしてJRAにまで及ぶ。巨大組織は「帝王学」を継承することでさらなる進化を図り、「世界制覇」に向けて動きだそうとしている──。
競馬界で圧倒的な存在感と影響力を発揮している巨大組織「社台グループ」。その中核である生産牧場「ノーザンファーム」がいかにして台頭し、独走状態に至ったかをは前回までで書いた。素質馬を優れた施設と環境で鍛え上げていることが何より大きいのだが、もう一つのファクターとしてあげられるのが、「優秀な騎手の確保」に他ならない。
一流馬には必ずと言っていいほど腕の立つリーディング上位の騎手を乗せているから、ノーザンファームは年間100億円を超える収得賞金を獲得できたのだ。逆に言えば、ノーザンファームの期待馬に乗れることが、今では一流騎手の証し。その一流騎手の中でも一段高く見られているのが外国の名手たちである。それはクリストフ・スミヨンが、エピファネイアに騎乗して14年のジャパンカップ(GI)を圧勝した時の吉田勝己氏(ノーザンファーム代表)のセリフでも明らか。
「仕上がり、乗り役、レース運びと完璧でした。古馬では断トツの強さ。今年3戦負けていたのが不思議でならなかった」
ジャパンカップに至るまで、この年の同馬は産経大阪杯(GII)を3着、クイーンエリザベスカップ(香港・GI)4着、天皇賞・秋(GI)は6着と振るわなかった。これは遠回しに主戦だった福永祐一を批判したものと取れる。日本ではリーディングを争う騎手でも海外の一流騎手に比べれば劣る、というわけだ。
勝己氏の外国人騎手へのこだわりは、競馬誌「ギャロップ」(13年10月27日号)の座談会でもハッキリうかがえる。
その中で前田幸治氏(ノースヒルズ代表)が社台の外国人騎手重用に異議を唱えたのに対し、「日本人騎手にもっと上手くなってもらわないと(乗せられない)」「外国人騎手が入ってくることで日本人騎手の腕も上がる」と反論。ポリシーを明確に表してみせた。この発言は、外国人騎手の日本国内や海外遠征での実績に裏付けられたものだから、リアリティがある。
例えば14年のドバイ・シーマクラシック。ジェンティルドンナに騎乗したライアン・ムーアは、直線で前が狭くなるやいなや馬を瞬時に右に向けて追い出し、差し切って見せた。まさに神技だった。
JRAが今年3月、ミルコ・デムーロとクリストフ・ルメールにJRA騎手免許を発行したのも、日本競馬界全体の技術向上につながると認めたからだ。と同時に、彼らの高い技量によって「競馬ファンが安心して馬券を買えること=売上面を考慮した」ことも間違いあるまい。ベテランの競馬ライターが言う。
「社台が推し進めてきた外国人騎手重用、ひいては通年騎乗の導入には騎手クラブの一部から反対の声がありましたが、多くの騎手は時代の流れに沿うものと理解していました。サッカーや野球では外国人選手流入が当たり前なのに、競馬だけ認めないわけにはいかないだろう、と。人望の厚い橋口弘次郎調教師が歓迎のコメントを発してからは、みんな当たり前のように捉えています」