7月29日の公開から1カ月、映画「シン・ゴジラ」のばく進が止まらない。興行収入は45億円を突破、さらに何度も劇場に足を運ぶ熱狂的なリピーターが続出しているという。なぜ今「ゴジラ」が大ヒットしているのか? 懐かしの過去シリーズとはどこが違うのか? 「新」「真」「神」‥‥映画から見えてくる7つの「シン」を手がかりに「シン・ゴジラ」大ヒットの謎に迫る!
ゴジラグッズの収集家としても知られる、なべやかん氏が感嘆する。
「今度の映画はいい意味でこれまでのゴジラを壊した作品になっている。物語の流れは1954年公開の初代ゴジラを踏襲しているが、肝心のゴジラはまったくの別物です。初代がオードリー・ヘプバーンなら、『シン・ゴジラ』はレディー・ガガというくらい違う。それでもファンの期待を裏切らないみごとな怪獣映画として成功しています」
映画のキャッチコピーに「現実〈ニッポン〉対虚構〈ゴジラ〉。」とあるように、物語は実にシンプルだ。
突如、東京湾に「巨大不明生物」が出現する。政府は水上生物だけに陸に上がれないものと判断するのだが、その意に反して巨大生物は背びれだけ水面から突き出し、大田区呑川を遡り、ついには蒲田市街へ上陸してしまう。
想定外の事態に政府は後手後手の対応となりながらも、ついには緊急事態を宣言し、自衛隊を出動させて全面対決することに。未知の生物として現れたゴジラと日本人の戦いがCG、特撮を駆使したド迫力の映像で描かれるのだ。
まず、観客がドギモを抜かれるのが、この最初の上陸シーンである。
「最初に尻尾、次に背びれを見せてからグロテスクな姿で上陸するシーンにやられました。僕は同じく背びれから姿を現す『モスラ対ゴジラ』の登場シーンがいちばん美しいと思っていますが、それを思い起こしたほど」(前出・やかん氏)
海中から上陸した巨大生物は、ゴジラのイメージを覆すグロテスクな「第2形態」へ変身を遂げるのだ。本作を作り上げた庵野秀明総監督と親交が深い編集者の岸川靖氏も、同場面に二重丸をつける。
「ゴジラ好きの監督ならゴジラのパブリックイメージを壊すことを躊躇してしまうはずです。でも、庵野総監督は特撮好きですが、実は尻尾のある怪獣にはそれほど関心がない。ゴジラの呪縛にかかっていない庵野総監督だから、この不気味なゴジラが実現した。怪獣映画は観て怖いと思うことが大切ですが、その意味ではこの第2形態を見るだけでも十分元を取れますよ」
「ゴジラ99の真実」(小社刊)などの著書を持つ日本一の怪獣博士こと池田憲章氏が、この変態ゴジラについて説明する。
「この第2形態には実在する深海魚『ラブカ』のエラを採用しているようです。後半になると口以外に尻尾や背中のひれからも熱線を放ち、さらに進化し、初めて観た人はひっくり返ると思います。しかし、ゴジラはもともと放射能火炎を吐く時には背中びれが光るので、おもしろいアイデアだと思います。今回のゴジラは着ぐるみではなくCGですが、野村萬斎さんの動きをモーションキャプチャーで取り入れたことにより、死からよみがえって現実に復讐するというゴジラが本来持つ不気味さを吹き込むことに成功しています」
シン・ゴジラのシンは「進」化のシンか。