社会

秋津壽男“どっち?”の健康学「注目されるロコモシンドロームって何だ?高齢者の転倒は寝たきりや要介護を招く」

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「ロコモティブシンドローム」(通称ロコモ=運動器症候群)という言葉をご存じでしょうか。

 これは2007年に日本整形外科学会が、やがて来る超高齢化社会を見据えて提唱した概念で、筋肉や肩、関節、椎間板などの運動器の衰えが原因で、立ったり歩いたりという機能が低下する状態を言います。

 高齢になると転倒しやすく、転倒による骨折で動けない間、筋力の低下により体力が落ち込むことがあります。すると、歩行などの日常生活に障害を来し、ロコモとなります。進行すると要介護や寝たきりになるリスクが高まるわけです。

 このロコモを予防するために、中高年がやっていいトレーニングとは「腹筋運動」と「スクワット」のどちらでしょうか。

 あおむけの状態から上体を起こす腹筋運動は、実は危険です。その昔、運動部ではうさぎ跳びと腹筋がワンセットになっており、ある程度の年齢でもやろうと思えばできてしまいます。

 しかし、腹筋運動は腰を痛めてしまうので、ロコモ予防には適していません。昔の感覚で腹筋をやろうとすると、よけいに体を痛めるリスクがあります。それでも腹筋をやりたい場合、まずはプロのトレーナーに教わるか、市販の腹筋マシンを使うことです。

 一方、足腰を鍛えるスクワットは脚から臀部、背中まで幅広い筋肉を鍛えられる運動で、ロコモ予防には効果的です。国民栄誉賞女優の故・森光子さんが晩年まで朝晩150回も行っており、黒柳徹子さんも、ジャイアント馬場さんの教えを受け、日課として毎晩寝る前に10年以上も続けていたそうです。80歳を超えてもお元気なのは、スクワット効果かもしれません。

 スクワットで使う筋肉は、大腿四頭筋、大臀筋、背筋、腹筋であり、下半身強化やヒップアップ、生活習慣病予防など幅広い効果があります。

 ただし、やり方を間違えると効果は半減します。プロレスラーのように、最初から深く腰を落とすのは難しいので、まずは「膝がつま先より前に出ない」「背中を丸めない」、この2点に注意しながら、できる範囲で始めてください。腰を落とした時に体がふらつくようであれば、まずは椅子の背もたれなどにつかまって始めること。また、正しい姿勢かどうか、鏡を見ながら行うのも一考です。

 このほか、ラジオ体操も筋肉など体の機能を維持するために有益です。全身運動であるラジオ体操は、日常生活で使用しない筋肉や関節を動かし、柔軟性を向上させます。特に高齢になると、筋力が落ちるだけでなく、関節の柔軟性が失われて血流が悪くなり、すると体が凝りやすくなります。ロコモ予防のほか、快適な生活を維持するためにも「いい運動」と言えます。ジャンプ運動などもあるので、高齢になっていきなり始めるより、40代や50代から日課にしておくとベストです。

 逆に、あまりオススメできないのが、歩きながら腰をひねったり足を高く上げる「エクササイズウオーク」です。これは、運動習慣がない人がいきなり始めるにはハードルが高すぎる運動です。まずは普通のウオーキングからスタートし、体が慣れてきたら3分間ずつ早歩きとゆっくり歩行を繰り返す「インターバル速歩」に挑戦してください。このインターバル速歩でもの足りなく感じたら、エクササイズウオークにチャレンジする段階です。

 若かった頃のイメージで、いきなりハードルの高い運動をこなすのはかえって危険。階段を一歩ずつ上がるように、運動も無理せず段階を踏んでください。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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