喫煙や暴力行為がバレれば対外試合が禁止され、甲子園出場の夢も断たれてしまう高校野球。子供たちの憧れであり、模範でいることを求められるプロ野球選手。そんな“クリーン”な野球界の実態を、自身の半生を振り返りつつ告白した愛甲猛氏の衝撃作が「球界の野良犬」だ。
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──名門高校の野球部のイメージが大きく変わる本です。
「他の学校は知らないけど、自分の時代は、1年生はゴミ、2年生は人間、3年生は神様だから。周りには3年生から『コーラ買って来い』と言われ、平仮名で『せんえん』って書かれた紙キレを握りしめて買いに行ったヤツもいた。砂利の上に正座させられての説教なんて日常茶飯事。自分が入学する前の出来事だと、コーラの王冠を後輩の頭の上に乗せて、王冠目がけてシューズでパッカーンと殴る先輩も」
──シゴキを超えたイジメですね。
「不良しかいない高校だからね。当時の野球部のモットーは『根性とハッタリでは負けるな』。遠征試合の時は全員が“ドカン”っていう太いズボンをはいて行く。試合前の挨拶で両校が整列する時は『相手よりあとに集合して、相手が引き揚げるまで帰ってくるな。相手からは絶対に目を離すな』と言われていた。2年の秋の県大会で不良の多かった高校と対戦した時は、挨拶が終わったのに両チームともベンチに引き揚げないから、審判に『いいかげんにしろ』と怒られた(笑)」
──シンナーやタバコにも手を出した。
「そうだね。アンパンはボンドって呼ばれるやつの威力がすごくて。ビニール袋に入れて、ひと吸いして目の前を見ると、膨らませたビニールの上に小人が立っている。で、その小人が『もうすぐだよ』って教えてくれると、幻覚が始まる」
──甲子園で優勝したあとの話もすごい。
「優勝パレードの翌日にスナックで酒を飲んでたら、知り合いの社長が来て、一緒に堀之内のソープに行った。あの時は待合室にお姉さんたちが集まって、サイン会になった」
──とても高校生の思い出とは思えない(笑)。
「今なら写真週刊誌とかあるから大問題になるだろうけど、昔は酒やタバコで大騒ぎする時代じゃなかったんじゃないかな」
──プロ入りした当時のロッテの選手も豪快です。
「ロッテの選手が乗ったバスがヤクザの車に道をふさがれたことがあって、その時にバスを降りて怒っているヤクザのところへ1人で行ったのが張本さん。で、5〜6分したら何事もなかったように戻って来て、カタがついた。有藤さんと麻雀をした時は『ロン!』って言おうとしたら、『上がれるものなら上がってみろや!』ってドスの利いた声で言われて。倒しかけた牌を慌てて立て直した(笑)」
──ドーピングの話も衝撃的です。
「当時、日本の野球界では使っている選手がいなかったから。専門医に相談してアンドロステンディオンという増強剤を使った。確かに筋肉のつき具合はすごかったけど、あの薬物は日本人の体には耐えられないシロモノ。引退後、血管が硬くなって脚の血液が心臓まで上がらず、丸太のようにむくんで入院したり、くるぶし付近の毛細血管が切れて赤い斑点になった。今でも足がむくむことがあるし、引退から12年たった今でも後遺症がある。薬物には手を出さないほうがいい」
──出版後の反響は?
「高校の同級生から『実名は勘弁してくれ』と言われたけど、『本当のことだからしょうがねぇだろう』と。ウソつくの嫌いだから」