スポーツ

玉木正之のスポーツ内憂内患「カヌー競技の薬物問題に見る五輪の“罪深さ”」

 スポーツ選手として絶対にやってはならない最悪の事件が起きてしまった。

 カヌー競技で2020年の東京五輪出場を目指していた鈴木康大選手(33)が、後輩のライバル小松正治選手(25)の飲み物にドーピングでの禁止薬物(筋肉増強剤)を入れ、失格処分に陥れようとしたのだ。鈴木選手は他にも、海外遠征中に小松選手のパスポートや現金を隠したり、パドル(カヌーを漕ぐために使う櫂)を盗むなど、様々な嫌がらせをしてライバルを日本代表から排除しようとしたらしい。

 この事件が最悪なのは、スポーツを一緒に行っている仲間が「敵」になってしまったことだ。良心の呵責に耐えきれなくなった鈴木選手が、自ら「犯行」を告白したのは微かな救いと言えるだろう。が、今後日本のスポーツ界では、近くにいる仲間も「敵」として「注意」する必要が生じてしまった。

 実際カヌー協会だけでなく、JOC(日本オリンピック委員会)や日本体育協会は、今後、選手に対して、自分の飲食物の自己管理の徹底を促すという。たしかにそれも必要な「対策」かもしれない。が、それは言葉を変えれば「仲間を信用するな!」と言っているのと同じ。それはスポーツの持つ素晴らしい教育的価値や、スポーツマンの目指す理想とは正反対で、スポーツをやればやるほど(トップ・アスリートに近づくほど)猜疑心や不信感を増幅させ、「非人間的」になってしまうことになる。

 ドーピングという薬物による身体改造行為も、結局は自らの身体を傷つける「非人間的行為」と言えるが、ライバルを蹴落としてまで自分が上に立ちたい(五輪に出場したい)と思うような「歪んだ心」や、「仲間を信用するな!」という「歪んだ考え」も、最悪の「非人間的思考」と言うほかない。

 それらの非人間的な身体や心をスポーツ(オリンピック)が醸成しているとするなら、スポーツやオリンピックのあり方自体を、根本的に考え直す必要がありそうだ。

 数多くのスポーツマンをドーピングに走らせ、人間的な心までも歪めてしまうのは、そもそもオリンピックというイベントがあるから‥‥と断じるのは早計に過ぎるかもしれない。が、間もなく開幕する平昌冬季オリンピックは、スポーツ大会としての話題以上に、北朝鮮と韓国による露骨な政治利用ばかりが際立っている。

 しかも4年後の北京冬季大会も、開催に立候補したのは北京以外にアルマトイ(カザフスタン)だけ。夏季五輪も東京大会のあとは、パリ大会とロサンゼルス大会が決まっている。が、それは莫大な経費のかかる五輪開催に立候補する都市がなくなってきたことに危機感を抱いたIOC(国際オリンピック委員会)が、これ幸いとばかり二つの大都市に28年までの開催地を割り振っただけのことだ。

 今やオリンピックは、青息吐息で延命策が続いているという窮状で、長期間保存していた五輪出場選手の尿検体から、北京大会やロンドン大会のメダリストや入賞者のドーピングが次々と発覚。そのうえアスリートの心までも「歪めている」となると、ここらあたりでオリンピックの「罪深さ」を考え直さないわけにはいかないだろう。

 政治的思惑でもなく、各国のメダル獲得競争でもなく、世界中の人々が本当に開催して良かったと思うようなオリンピック‥‥、そして多くの新たな都市が、自分たちも開催したいと思うようなオリンピック‥‥それは、きっと質素で簡素で人間的な心温まる大会ということになるのだろうが、2020年は派手でなく、目立たなくていいから、そういう東京オリンピックにしてほしいものだ。

玉木正之

カテゴリー: スポーツ   タグ: , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    「男の人からこの匂いがしたら、私、惚れちゃいます!」 弥生みづきが絶賛!ひと塗りで女性を翻弄させる魅惑の香水がヤバイ…!

    Sponsored

    4月からの新生活もスタートし、若い社員たちも入社する季節だが、「いい歳なのに長年彼女がいない」「人生で一回くらいはセカンドパートナーが欲しい」「妻に魅力を感じなくなり、娘からはそっぽを向かれている」といった事情から、キャバクラ通いやマッチン…

    カテゴリー: 特集|タグ: , , |

    今永昇太「メジャー30球団でトップ」快投続きで新人王どころか「歴史的快挙」の現実味

    カブス・今永昇太が今季、歴史的快挙を成し遂げるのかもしれないと、話題になり始めている。今永は現地5月1日のメッツ戦(シティ・フィールド)に先発登板し、7回3安打7奪三振の快投。開幕から無傷の5連勝を飾った。防御率は0.78となり、試合終了時…

    カテゴリー: スポーツ|タグ: , , |

    因縁の「王将戦」でひふみんと羽生善治の仇を取った藤井聡太の清々しい偉業

    藤井聡太八冠が東京都立川市で行われた「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」第4局を制し、4連勝で王将戦3連覇を果たした。これで藤井王将はプロ棋士になってから出場したタイトル戦の無敗神話を更新。大山康晴十五世名人が1963年から1966年に残…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
豊臣秀吉の悪口に反論したら「耳と鼻をそがれて首を刎ねられた」悲劇の茶人
2
中日OB名球会打者が「根尾昴は投手ムリ」バッサリ斬って立浪監督にも真っ向ダメ出し
3
DeNA大型新人・度会隆輝「とうとう2軍落ち」に球団内で出ていた「別の意見」
4
年金未払いで参院選出馬の神取忍「細かいことはわからない」に騒然/スポーツ界を揺るがせた「あの大問題発言」
5
「趣味でUber Eats配達員をやってる」オードリー若林正恭に「必死の生活者」が感じること