社会
Posted on 2026年10月17日 21:02

【街ブラルポルタージュ】「横浜カオス」なぜ彼らはこの街に惹かれるのか〈第1回・関内〉(3)イセザキ・モールの「妖精」

2026年10月17日 21:02

 自宅から野毛に歩いて向かう際、いつもイセザキ・モールを横切ることになる。というか、毎日酒を飲んでいるわけではないので、どちらかというとイセザキ・モールのほうに入り浸っていることが多い。

 全長1.4kmあるイセザキ・モールは、24時間365日、歩行者天国になっている。自転車も通行禁止になってはいるものの、結構な割合でモール内を自転車が走り去っていく。しかし、誰も文句は言わない。きっとみんな、急いでいるときや歩くのがかったるいときなど、いざとなったときに自転車でモールを突っ切りたいからだ。

 このイセザキ・モール、昔から一帯に住んでいる人から言わせれば、「個人商売の人たちがいなくなり、だいぶつまらなくなった」そうだ。たしかに、飲食店はチェーン店が目立つし、ここ数年で一気に勢力を伸ばしている中国勢の店も目立つ。要は個性豊かだった商店街が、均質化しつつあるのだ。

 ただ、イセザキ・モールにはほかの商店街にはない特筆すべき大きな魅力がひとつある。ここには、私が「妖精」と呼ぶ人たちが非常に多く滞留しているのだ。

 では、まず「妖精」のわかりやすい例を3つ。

 ある日、イセザキ・モールを歩いていると、前方から右に左に蛇行しながら進んでいるおじさんがいた。遠目に見てもわかるくらい「何かデカいもの」を持っている。だんだん近づいてくるにつれて、それは脚立だとわかったが、目の前まで来たとき、私は「キエーッ!」という奇声を上げそうになった。

 そのおじさんは脚立の踏み桟の間に身体を入れ、電車ごっこみたいにして歩いていた。もしかしたら、どこかへ脚立を運ぶ用事があって、楽な方法を編み出したのかもしれない。そう考えていったん吞み込んだものの、野毛で飲んだ帰り道にイセザキ・モールでまた脚立に挟まれた状態のおじさんとすれ違ったのだった。

 また、あるときは、イセザキ・モールを歩いているおじいさんに20羽くらいのハトが群がっていた。寿町なんかに行くと、よく暇潰しにハトに餌をあげている人がいるが、そういうわけでもなさそうだ。おじいさんの周りを360度回って見てみたが、ただ歩いているだけである。私は気になりすぎておじいさんに話しかけてみた。

「ものすごいハトに人気ですけど、エサでもあげてたんですか?」

「いや~、エサなんかあげてないんだけど、ついてくるんだよね」

「いつもなんですか?」

「そう、いつも」

「なんでだと思いますか?」

「なんでだろうね~。私が眼鏡をしているからだと思う」

 私も眼鏡をしているし、そんな人はそのへんにいっぱいいる。

 先日、中国に旅行へ行った。出発の前日、友人とイセザキ・モールを歩きながら「明日から中国に行くんだよね」と話していたら、横から知らないおじさんがいきなり話に入ってきた。

「私も中国には縁があってね、年に4回は行っているよ。それを20年続けているから、もう80回近くは行ったことになるね。ここまで中国に詳しい日本人はなかなかいないと思うよ」

「そうなんですね」

 知らないおじさんの旅行話にはそこまで興味がなかったが、私も友人もおじさんもとくにこの後予定があるわけではない。気づけばおじさんのスマホにある旅の写真フォルダを3人で一緒に見ていたのであった。

「妖精」の定義はいたって簡単で、とくにすることもないのに、街をぶらぶら歩いている人のことである。東京にいる人間には、たいていその場所を歩いている理由がある。新宿にいる人は新宿に用があるし、渋谷にいる人は渋谷に行く理由があって渋谷にいる。だから東京には、妖精がほとんどいない。

 妖精が街にあふれるとどんなことが起きるか。妖精同士の交流が生まれる。見ず知らずのおじさんが中国旅行の話に割り込んできたのも、彼が妖精であり、私たちもまた妖精だったからだ。

 イセザキ・モールの魅力を語っていたら、福富町と寿町を歩く前に終わりが来てしまった。また次回以降、ブラつくことにしよう。

國友公司(くにとも・こうじ)1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。著書「ルポ西成」「ルポ路上生活」「ルポ歌舞伎町」「西成ユートピア」「ワイルドサイド漂流記」。連載「日本場末スナック放浪記」など。

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