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記事全文を読む→「猪木VSアリ戦」50年の真実〈第1回〉(3)巡業中に猪木は謎の来局を…
冒頭に触れたとおり、舟橋はサンスポ報道が猪木vsアリ戦実現の発端とする通説を否定する。舟橋が目撃した現実は、まったく異なっていたからだ。
「サンスポの記事はね、突然じゃないんですよ。あの時には、もう事態は動いてましたから。たまたま外に漏れただけで、すべてもう始まっていたんです」
話は75年2月に戻る。当時、舟橋は三浦の個室に頻繁に出入りしていた。
「三浦さんは糖尿病で視力がとても悪くてね、本を読むのが大変だった。それで私が、いろんな本の内容を吹き込んでいたんです」
それゆえ、三浦の周辺で起きていることを、誰よりも近い距離で見てきた。
「例の電話後、猪木さんが、たびたびNETに来るようになったんですよ」
猪木が訪れた5日間を新日本プロレスの巡業日程に照合すると、その異常性が浮かび上がる。1月から2月6日の大田区体育館大会までが「新春黄金シリーズ」、2月21日から3月20日の蔵前国技館大会までが「ビッグファイト・シリーズ」にあたる。
猪木の来局は、新春黄金シリーズ終了直後からビッグファイト・シリーズ開幕直後の序盤に集中していた。2月7日は締めの大田区大会翌日。2月13日は公演休日。2月20日は群馬県藤岡市で新シリーズが開幕する前日にあたる。2月27日は福島大会と岩手大会の合間。3月1日は岩手大会と秋田大会の合間─いずれも巡業の息つく間もない隙間である。
「普通じゃ考えられないですよ。だって巡業中ですからね」
そして猪木の来局の模様を、こう振り返る。
「猪木さんはスッと入っていくんですよ。で、しばらくすると出てくる。何を話してるかはわからない」
だが、空気は違った。
「明らかに普通じゃない。何か大きなことをやっている感じはありました」
三浦の部屋を出た猪木は、その後、運動部長・永里高平の元へ足を運んだ。「部長、よろしくお願いしますよ」猪木はそう繰り返した。
「『冷たいですよ』とか『わかってますよ』って何度も言うんです」
アリとの試合を自分に任せてくれ─その意思を言葉にせず滲ませていた。
「でもね、それ以上は言わないんですよ。核心のところになるとね、『ムフフ』って笑う。それでごまかすんです」
語らない、しかし引かない─それが猪木の交渉のやり方だった。
永里は頑として「何のことだ、頼まれる覚えがない」と言い続けた。かみ合わないまま猪木が帰っていく。しかし、来局が積み重なった3月1日、決定的なやり取りがあった。
「三浦さんが永里さんに電話したんですよ。『永里、そういうことだ』って。そして、こう続けました。『ワクワクするだろう?』と」
この一言で、局内の空気は一変したのである。
「1月20日の(八田からの)国際電話から、ずっとつながっているんですよ。その後の三浦の動き、猪木の来局、永里への接触。最初から流れがあった」
猪木はみずから、三浦・永里という権力者の扉を叩き続けていたのだ。
「猪木さんの来局は、単なる陳情じゃなく、あれは意思表示でした。世間はともすると、猪木vsアリ戦を『テレビ局が仕掛け、プロモーターが動かした興行』ととらえがちですが、実態は逆。猪木さん本人が、誰よりも早く誰よりも強く、この試合を求めていた。八田、永里、三浦という実力者たちが三者三様に動き始めた背景には、猪木という男の並外れた熱量があったんです」
三浦はすでに猪木に話を通し、猪木を焚た きつけた上で、永里に丸投げしていた。三浦甲子二こそが、猪木vsアリ戦実現の最大の立役者であり真の仕掛け人だと舟橋は断言する。さらに、こう付け加える。
「世間ではさまざまな人が仕掛け人だと言われてきました。康さんの名を挙げる人もいますが、それは違う。康さんはNETに正面から売り込もうとして、拒絶されている。猪木vsアリ戦を本当の意味で設計し、動かしたのは、三浦甲子二だったんです。ただ、その三浦さんを動かしたのは、ほかならぬ猪木さん本人だった。私は歴史の証人として、この事実を後世に伝えておきたい」
福田竜一(東京新聞)
写真提供/山内猛
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