社会
Posted on 2025年11月15日 18:00

ベストセラー「悲しきヒットマン」のモデル逮捕で原作者・山之内幸夫氏が胸中告白

2025年11月15日 18:00

 三浦友和が鉄砲玉を演じ、ヤクザ抗争の裏面を描き出した映画が公開されてから37年が経過した。まさか、そのモデルとなった組幹部が再びヒットマンとして逮捕されようとは‥‥。

「第一報を聞いて、胸が締めつけられる思いでした」

 苦悶の表情を浮かべ、こう話すのは元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏。同氏が胸を痛めたのは、去る10月26日の「18年前に起きた殺人事件の捕り物劇」を知った時のことだ。兵庫県警が組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人)で、神戸山口組系の勢昇幹部を逮捕した一件である。

「実は、私の処女作『悲しきヒットマン』のモデルになった組員が、逮捕された勢さんなのです。まさか、ヒットマンとして生涯を貫き通すことになるとは‥‥」(山之内氏)

 この山之内氏の苦悩を理解するには、少し解説が必要だろう。

 そもそも「悲しきヒットマン」は88年に弊社から刊行されたルポルタージュだ。山一抗争を1人のヒットマンの視点から描いた異色作なのだが、この主人公が勢幹部だった。半年にわたって一和会幹部らをつけ狙い、公道でカーチェイスしながら銃撃戦を繰り広げるなど、リアルなヒットマンの暗躍を活写した。

 だが、山之内氏が主題として描いたのは、抗争活劇などではない。組織に翻弄される個人。愛する妻子への思いを断ち切り、組織のためにヒットマンに志願する男の悲話であった。これが多くの共感を呼び、ベストセラーになる。89年にはルポを下敷きにしたフィクションとして東映で映画化され、こちらもヒットする。

「勢さんは一和会系組事務所に手榴弾を投げ込んだところで逮捕されます。不発に終わったのですが、懲役10年の刑を打たれ、徳島刑務所に服役するのです。『悲しきヒットマン』が刊行されたのも、映画化され話題となったのも、勢さんが服役したあとだから、ご本人は話題になっていることは理解していなかったそうです。でも、新たに入ってくる受刑者に『あなたが伝説のヒットマンですか』と言われて、初めて知るわけです。ヤクザの世界では組織のために体を張ることは美徳とされるわけですから、ご本人は決して悪い気はしなかったのではないでしょうか」(山之内氏)

 また、この服役が勢幹部の運命を変える。当時、徳島刑務所には神戸山口組・井上邦雄組長も大阪戦争で服役していたのだ。

「これが縁となったのか、勢さんは出所後、もともと所属していた組織ではなく、井上組長がいる山健組へと移籍します。そして、みずからの組織、一勢会を発足させます。当初から、勢さんに付いた『悲しきヒットマン』のイメージどおり、山健組に事が起きたら走るための組織、いわばヒットマン部隊のように捉えられていました。そして、今回の逮捕された事件が起きるのです」(山之内氏)

 07年5月、井上組長がトップを務める山健組から処分を言い渡され、帰路の途中にあった五代目多三郎一家・後藤一男総長が神戸市中央区の路上で刺殺されたのだ。その後、山健組最高幹部ら13人が事件に関わったとして逮捕。勢幹部は現場指揮役の疑いがかけられ、09年に指名手配されるも逃亡を続けていた。

「後藤総長の処分理由は明らかになってはいませんが、六代目体制を批判したことで処分され、山健組が六代目体制への忠誠心を見せるために殺害したと、警察は見ています。しかし事件から8年後、山健組の井上組長は六代目体制を批判して、山口組を割って出たわけです。いったい何のための刺殺事件で、なぜ勢さんが走らねばならなかったのか‥‥」(山之内氏)

 またも、勢幹部は組織の論理に翻弄されたというのか。それならば、再び「悲しきヒットマン」に戻ったということになるが‥‥。

「確かに、この事件を主導したとして有罪になった山健組最高幹部は懲役20年、実行犯での最高刑は19年でした。勢さんが逃亡を続けた期間が量刑と変わりがないことを考えると、胸を締めつけられる思いになります。でも、少なからず勢さんの生涯に関わった者としては、彼は最後まで男の意気地を通したのだと思いたいです」(山之内氏)

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