社会
Posted on 2026年10月17日 21:01

【街ブラルポルタージュ】「横浜カオス」なぜ彼らはこの街に惹かれるのか〈第1回・関内〉(2)保育士女子2人組が野毛で…

2026年10月17日 21:01

 JR桜木町駅を降りて地下通路を潜り、地上へ出ると、そこには一大飲み屋街の「野毛」が広がっている。飲食店の数は大小含めると600~700店舗とも言われており、都内から遠征してきた女子3人組が「せんべろ」を合言葉にハシゴしていくようなおしゃれな酒場で、あの「東京カレンダー」(上級グルメ情報誌)も野毛を取り上げるほどである。

 だが、ほんの15年ほど前までは男ですら若干足を踏み入れるのをためらう一帯だったという。路上では怒号が飛び交い、電柱の根元には小便の跡、店に入れば見知らぬ酔客に絡まれる。飲み屋街というより、ドヤ街に近い。せいぜい、エロ本の誰が読んでいるかわからない1ページコラムに載るような街でしかなかった。

 それがどうだろう。今の野毛にそんな面影はない‥‥と言いたいところだが、そういう側面がきれいさっぱり一掃されたわけでもない。

 ある晩、野毛で知り合った男性(50代・坊主頭)とハシゴ酒をしていると、彼の友人だという女性2人が合流した。2人とも保育士だという。

「ここで飲んでいると、そのへんにいる男が払ってくれるから、私たち野毛でお金を使ったことないの☆」と言われたときは帰ろうかと思ったが、この中では年長である男性が「私が払うから気にしないで」と小声でささやいてくれたので、そのままついていくことにした。

 2軒目だったろうか。「もつ焼きごえん」という人気店のテラス席(といってもドラム缶の上)で焼鳥とビールで1杯やっていると、保育士の1人が「キエーッ!」と奇声を上げた。たしかにここの焼鳥(とくにつくねとレタス巻)は美味いが、気が触れるほどではない。

「いま通った人、保育園にいる○○くんのママだった。となりの男の人は○○くんのパパじゃない‥‥」

 目で追うと、その2人は指先を絡ませ、並んで歩いているというのにお互いを見つめ合いながら大岡川のほうへ消えていった。

 保育士たちはそのショックから熱燗をあおり始め、「まだ足りない」「もうやってられねぇよ」と、数時間前までの鼻につくキャピキャピ感も消え去り、そこから堰を切ったように酒が進む中で私たちはすっかり打ち解けた。ところが解散間際、保育士のスマホに1通のLINEが届く。

「ねえ、さっき一緒にいた男は誰? 見た感じろくな奴じゃないから会うのやめたほうがいいと思ってる」

 さっき一緒にいた男とは、どう考えても私のことである。送り主は、さっきすれ違い際に軽く声をかけてきた(不倫男ではない)、いつも野毛を飲み歩いているというおじさんだった。彼女たちいわく、頼まれてもいないのに街の世話役のような顔をしていて、こうして人の交友関係にまで口を出してくるのだという。当然だが、画面を見た彼女たちは、露骨に嫌な顔をしていた。

 私は「そんなどうしようもないおじさんがまだいるもんだね」と、珍しいものが見られたくらいの気持ちでいたが、以降も野毛に飲みに行くたびに結構な確率でこのおじさんを目撃するのだ。しかも、案外友だちも多そうなのである。

 そう、「人の欠点を愛せる」という、これこそが野毛の魅力。ドラえもんの登場人物で「(優等生の)出木杉くんが好きです」という人に会ったことがないだろう。スネ夫みたいなおじさんがあふれている飲み屋街のほうがきっと楽しい。逆に、出木杉くんしかいない飲み屋街を想像すると、ゾッとする。

國友公司(くにとも・こうじ)1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。著書「ルポ西成」「ルポ路上生活」「ルポ歌舞伎町」「西成ユートピア」「ワイルドサイド漂流記」。連載「日本場末スナック放浪記」など。

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