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Posted on 2026年10月11日 21:00

【江戸・明治の歴史深淵】流暢なロシア語接待でニコライ2世を感服させ「現地妻」を斡旋した「長崎の女傑」お栄さんの偉大な功績

2026年10月11日 21:00

 もともとは現代でいう風俗嬢まがいの仕事をしながら、のちに「ロシア海軍の母」「稲佐のお栄さん」と称えられることに。坂本龍馬と親交があった大浦慶や、シーボルトの娘でオランダおいねと呼ばれた楠本イネとともに「長崎三大女傑」といわれたのが、実業家の道永栄である。

 江戸幕末期の万延元年(1860年)に現在の熊本県上天草市大矢野町の庄屋の娘として生まれたが、12歳で両親を相次いで亡くし、身寄りを頼って長崎に出てきた。そして20歳の頃、長崎市稲佐にある西洋料理店「ボルガ」の女将・師岡マサと出会い、この店の女中となった。

  当時の稲佐は、冬に港が凍結するウラジオストクに代わる「ロシア極東艦隊の冬営基地」の役割を担い、多くのロシア軍人で賑わった。お栄さんは当初、これらロシア軍人に性的なサービスを提供する「洋妾(らしゃめん)」的な役割を担っていたらしい。
 お栄さんはウラジオストクに渡り、独学でロシア語を習得。帰国後はその美貌と気風のいい社交的な性格で水兵から将校に至るまで絶大な人気を集め、その評判はロシア本国のサンクトペテルブルクやモスクワにまで届いたというから大したものだ。

 明治24年(1891年)、のちのロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世となるニコライ皇太子が長崎を訪問した。この際、長崎県からの依頼で、宴席の幹事を務めている。 
 当時31歳になっていたお栄さんはロシアの貴族たちが愛する文化を完璧に理解し、ロシアの伝統的な湯沸かし器である「サモアール」を準備。極上の紅茶を淹れてもてなしたという。
 さらに流暢で美しいロシア語を操り、ユーモアを交えながらの完璧な給仕にニコライ皇太子は深く感動し、「東洋の真珠」として称賛。ダイヤ入りの金時計をプレゼントしている。

警察官の「皇太子斬りつけ事件」大パニック国際問題の解決に奔走

 それだけではない。お栄さんは男性のスケベ心も理解していた。 当時、稲佐にはロシア将校の滞在期間中、地元の日本女性と契約を結んで一緒に暮らす者が多くいた。これは「モスメ(娘)制度」、別名「いとこ制度」で、お栄さんはニコライ皇太子が滞在中に「キヨ(お清さん)という女性を現地妻として斡旋した。
 皇太子は短い滞在だったが、ロシア革命の影響で1918年にニコライ2世として処刑される直前まで、長崎滞在を懐かしんでいたという。

 お栄さんはその後、歴史の渦に巻き込まれる。皇太子一行が長崎を離れて滋賀県大津市を訪れた際、警備にあたっていた日本の警察官・津田三蔵に突如、斬りつけられる「大津事件」が発生したからだ。
 国賓が滞在中に警察官に襲われるなど、国際問題になりかねない。報復を恐れた日本国内は大パニックになり、明治天皇が京都へ急行して謝罪するほどだった。

 激怒したロシア艦隊は急遽、長崎港へ引き返す事態となったが、ここでお栄さんが奮闘。怒りと不安に駆られるロシアの水兵や将校たちの間にいつも通り飛び込み、
「あの事件はおかしなひとりの日本人の仕業です。日本国民みんなの意思ではありません」
 毅然とした態度でそう諭して回り、事態の収拾に奔走した。今、日ロ関係は最悪に近いものになっているが、お栄さんのような人間はいないのだろうか。

(道嶋慶)

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