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記事全文を読む→「世代論」で読むプロ野球〈松坂世代・続〉(3)“火の玉”藤川と“長寿”の和田
藤川球児は、松坂世代の中で最も“瞬間最大風速”のある選手だった。火の玉ストレートと呼ばれた直球は、単なる速球ではない。球速表示以上に、打者のバットの上を通過していくように見える異質な球だった。しかも藤川の凄みは、球種がわかっていても空振りを奪うところにあった。NPB公式記録では、通算782試合、60勝38敗、243セーブ、163ホールド、防御率2.08、1220奪三振。救援投手として、数字にも記憶にも強烈な爪痕を残した。
また、松坂が引退の時には、「同期で同じ高卒ドラフト1位。よく比べられたけど、楽しかった」としみじみ。「どこへ行っても一番注目される。最後までそう。常にまぶしい。僕らは追いかけていた」とコメントを残した(2021年10月21日・中日スポーツ)。
藤川の存在は、リリーフ投手の見え方を変えた。短いイニングで試合を締めるだけではなく、球場全体の空気を一変させる。8回、9回に藤川が出てくると、試合は戦術から儀式に変わった。観客はストレートを待ち、打者もストレートを待ち、それでも空振りする。あれは投球でありながら、ひとつの興行だった。松坂世代の昭和的カリスマ性は、先発完投型だけではない。藤川のように、たった一球で観客の身体を震わせるカリスマもあった。
松坂世代の最後を語るうえで、和田毅は欠かせない。彼は派手な怪物ではなかった。球速で観客をどよめかせるタイプでも、感情を前面に出してマウンドを支配するタイプでもない。それでも、最後まで残った。ホークスの引退記念特設サイトでは、和田のプロ生活は22年、日米通算165勝と紹介されている。02年に福岡ダイエーホークスへ入団し、新人から5年連続2桁勝利。11年オフに海外挑戦し、16年にホークスへ復帰。その後も現役を続け、41歳で自己最速の149キロを記録したことも記されている。
さらに、松坂は引退会見で和田に対し「僕の分も投げ続けて欲しい」と語っていた。これを受けて和田は、「大輔から受けたバトンは本当に重たいですが、松坂世代みんなの思いが詰まっていると思うので、託されたものに恥じない姿でいられるよう、燃え尽きるまで頑張りたいと思っています」(2021年10月19日・フルカウント)
とコメントしていたほどだ。
和田の長寿の秘訣は、単に身体が強かったことではない。むしろ、速さに頼りすぎない投手だったことが大きい。腕の振り、球の見えにくさ、タイミングのずらし方、直球と変化球の組み合わせ。若い頃から「球速表示以上に差し込む」投手だったからこそ、年齢を重ねても勝ち方を更新できた。
NPB公式記録を見ると、22年は17試合で7勝4敗、防御率2.78、23年も21試合で8勝6敗、防御率3.24を残している。40代に入っても一軍の先発として勝ち星を重ねていたことが、和田の常識を超えた持続力を物語る。
もうひとつ大きいのは、和田が「変わること」を受け入れた点だ。若い頃の自分をそのまま再現しようとするのではなく、年齢に合わせて役割を変え、身体の状態に合わせて出力を調整し、それでも勝負どころでは腕を振る。松坂世代は、どうしても根性や気迫で語られやすいが、和田の長寿は気合だけでは説明できない。むしろ、冷静な自己管理、フォームへの理解、準備の継続、そしてプライドの置き方がうまかった。
24年の和田は8試合に登板し、2勝2敗、防御率3.76。NPB通算では334試合、160勝89敗、防御率3.18、1901奪三振を記録した。25年3月15日には引退記念試合が行われ、最後のマウンドで清宮幸太郎から空振り三振を奪ったことも報じられている。セレモニーでは、杉内俊哉、松坂大輔、藤川球児らの名前も並び、まさに松坂世代の終章にふさわしい場面となった。
和田毅の引退は、ひとりの名投手の引退にとどまらない。NPBにおける松坂世代の終焉である。あの世代が、ついに現役選手としてグラウンドからいなくなった。松坂が切り開き、杉内が研ぎ、村田が振り抜き、藤川が燃やし、和田が最後まで灯を守った。そう考えると、和田の引退は静かだが、非常に重い。派手な花火ではなく、最後まで消えずに残っていた火が、ようやく役目を終えたような感覚がある。
ゴジキ:野球評論家・著作家。「データで読む甲子園の怪物たち」(集英社新書)ほか著書多数。「マネジメント術で読むプロ野球監督論」(光文社新書)が重版出来。発売前から重版となった最新刊「システムで読む甲子園」(カンゼン)が絶賛発売中。Yahoo! ニュースエキスパート。
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