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記事全文を読む→金難民〜金塊密輸に魅せられた人々〜〈第7回「600万円のロレックスを520万円で売って儲ける手口」〉(1)「金よりえげつない」
2017年の「ストップ金密輸」緊急対策によって、下火になっていった金の密輸ビジネス。代わりに台頭したのが高級腕時計を使った新たなスキームだった。ロレックスを600万円で仕入れて520万円で売る─。それでも利益が出る驚きのカラクリとは‥‥。
2018年秋、東京・中野ブロードウェイ─。
サブカルチャーの聖地として知られるこの雑居ビルには、時計店が15軒ほどあった。その多くが3階に集まり、9割の店がロレックスで回っていた。
「ここが世界最安値なんですよ」
海外で時計を買い付けていた元バイヤーの男が言う。この男が働いていた店を、ここではA社と呼ぶ。
地下1階に店を構えるA社では、ロレックスが1日に2000~3000万円分も売買されていた。本数にして8~10本だ。
「私が海外で600万円で買い付けて来たものが、ここでは520万円で売られています」
その安さから、「ロンドン相場」よろしく「中野相場」という言葉があるほどだった。
なぜこうも安いのか。80万円の赤字でなぜ、成立しているのか。
彼らが売っていたのは時計ではなかったのだ。
19年1月29日、そのカラクリに繫がる事件の一報を時事通信が打った。
「高級時計密輸で4000万円脱税=容疑で買い取り会社告発─東京国税局」
東京・上野のブランド品買い取り会社「ネクサス」と三浦綱康社長(当時49)が、東京国税局から東京地検に告発された。香港に従業員を渡航させてロレックスを大量に購入。税関で申告せずに持ち込み、国内で仕入れたように帳簿を偽装した。
消費税約1600万円の支払いを免れ、さらに約2400万円の不正還付まで受けていたとされる。消費税逃れを狙った密輸のブツは金ではなく、時計。しかも手口はさらに深くなっていた。
そもそも、なぜ金から時計に変わったのか。
17年、金密輸の摘発件数は1347件でピークを打つ。同年11月に財務省関税局が「ストップ金密輸」緊急対策を打ち出し、翌18年4月には改正関税法が施行された。罰金の上限は1000万円に引き上げられ、金塊そのものも没収される。
112キロ、4億8000万円が国庫に消えたプライベートジェット事件が、その象徴だった。一度の摘発で全額を失うのだ。
だが、消費税という制度そのものが変わったわけではない。海を越えて運びさえすれば、その分が抜ける。
何か、安全に税関の目を欺けるブツはないのか。そこに登場したロレックス─。
5000万円分を密輸するとする。金なら11キロ。腹に巻き、股間に貼りつけ、それでも隠しきれない。だがロレックスなら10本、2キロ。腕に2本ずつ着けるだけでいい。
「金よりえげつないですよね」
元バイヤーの男は言った。
なぜ、腕に着けるだけで通るのか。海外で買った品は、20万円の免税枠を超えれば課税される。だが腕に着いた時計が、日本から着けて出たものか、現地で買ったものかを見分けるすべはない。もともと持っていた私物─そう装えば、申告の義務は生じないのだ。
仕入れも容易だった。
金には仕入れルートが要る。香港のリファイナリー、怒羅権のブローカー、ドバイからの流れ。ルートを持たない者に大きなシノギは望めない。
だがロレックスは違う。正規代理店はどこにでもある。カードさえ通れば、誰でも買える。
高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。
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