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「第91回夏の甲子園」今宮健太擁する明豊VS菊池雄星擁する花巻東の激闘

 2009年第91回夏の選手権準々決勝第1試合、花巻東(岩手)対明豊(大分)との一戦は、まさに雌雄を決する大一番となった。

 超高校級左腕・菊池雄星(シアトル・マリナーズ)を擁する花巻東はこの大会の優勝候補の大本命。東北野球界の悲願である“甲子園初優勝”を狙っていた。対する明豊は3番を打ち、野手兼投手でチームを引っ張る今宮健太(福岡ソフトバンク)が軸。初戦から興南(沖縄)の島袋洋奨(福岡ソフトバンク)、西条(愛媛)の秋山拓巳(阪神)、常葉橘(静岡)の庄司隼人(広島東洋)といった、プロ注目の投手たちをことごとく撃破し、波に乗っていた。さらに両校はこの春の選抜2回戦でも対戦。その時は花巻東が4‐0で一蹴しているため、明豊にとっては是が非でもリベンジしなければならない相手だった。

 当然、試合前は接戦が予想された。だが、この日は明豊の先発を任された今宮が不調。2回表に右前打、四球、犠打で1死二、三塁とされると8番を打つ菊池の二ゴロであっさりと1点を献上。さらに4回表には先頭の5番・横倉怜武以下に3本の長短打を浴び1失点。続く菊池の犠打のあと、9番・山田隼弥にも左前適時打を打たれ、なおも1点を追加される。そしてここでまさかの途中降板となってしまう。明豊はこのあと2番手で登板した左腕・野口昴平も打たれ、この回計3失点。序盤で0‐4とリードされる苦しい展開となってしまったのだった。

 一方、花巻東のエース・菊池のピッチングは立ち上がりから完璧であった。4回を終わって4奪三振、1人の走者も許さない圧巻の投球内容。これまで次々と好投手を攻略してきた強打の明豊打線も完全にお手上げ状態である。この日の菊池の調子から考えて、試合はこのまま花巻東が押し切るかと思われた。

 だが、そんな花巻東の目論見が5回裏に暗転する。きっかけは大黒柱である菊池を襲ったアクシデントだった。この回先頭の4番・阿部弘樹に四球を与えてこの試合初となる走者を許すと、続く5番・寿雄大に左前打、さらに6番・河野凌太に右犠飛を打たれ、1点を返されたのだ。次の打者は遊飛に打ち取ったが、ここで菊池は背中の痛みを訴え、緊急降板してしまったのである。

 この非常事態に花巻東は三塁を守っていた猿川拓朗を急きょ、マウンドへ送る。猿川もこれまで菊池の控え投手としてチームの勝利に貢献してきた右の好投手だったが、いかんせん強打の明豊打線には荷が重かった。6回裏には2死満塁のピンチから5番・寿に右前に2点適時打を、8回裏にはこの回先頭の3番・今宮の二塁打から死球、さらに2本の二塁打を浴び、一挙3失点とついに4‐6と試合をひっくり返されてしまったのである。

 普通なら、この時点で“ジ・エンド”である。だが、東北勢初の悲願へ絶対に負けられない花巻東は9回表に粘りを見せる。4回途中から登板後、わずか2安打に抑えられていた明豊の3番手・山野恭介を責め、先頭の3番・川村悠真以下が3連打を放ち、同点に追いついたのだ。なおも1死三塁と勝ち越しのチャンス。 この場面で明豊ベンチは先発するも4回途中でKOされた今宮を三塁からふたたびマウンドへ。このピンチで今宮は150キロ台の速球を連発し、2者連続の三振で逆転を阻止。逆に花巻東は絶好の逆転機を逸してしまった。それでもその裏、1死一、二塁という一打サヨナラのピンチを猿川が切り抜け、試合はついに延長戦となる。

 その10回表だった。菊池のあとを受けて力投を続けていた猿川に、ついに待望の援護点が入る。2死二塁から3番・川村が中前へ決勝点となる適時打。逆に9回のピンチを死力で切り抜けた今宮にもう力は残っていなかったのである。迎えた10回裏、猿川は四球の走者1人を許したのみで、大熱戦にピリオドを打ったのであった。

 死闘の果てに7‐6で難敵・明豊を返り討ちした花巻東はついにベスト4へ進出。悲願まであと2勝と迫った。だが、準決勝の中京大中京(愛知)戦で、菊池は先発を回避。チームは1‐11の大差で敗れた。超高校生級の怪物左腕を持ってしても“大旗の白河の関越え”はならなかったのである。

(高校野球評論家・上杉純也)=敬称略=

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