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記事全文を読む→金難民〜金塊密輸に魅せられた人々〜〈第7回「600万円のロレックスを520万円で売って儲ける手口」〉(3)隠さないから疑われない
「海外仕入れのサポート業務。旅費経費こちら持ち。日給2万円」
入り口はよくある求人媒体だった。A社の面接会場には、次々と応募者が訪れた。
「特に履歴書とか必要ないんですよ。肝心なのは、そこでクレジットカードが使えるかどうか。これだけです」
カードが使えるとわかった応募者には、その場でこう持ちかけられる。
「海外でバイヤーっていうお仕事があるんですけど、どうですか。実は日給2万円のバイトよりも稼ぎがいいですよ」
頷けば、話は早い。
「明後日からでもシンガポール行けますか」
指定された正規店を回り、カードの上限いっぱいまで時計を買う。500万円分買えば、空港のイミグレーションで6〜7%─約35万円がタックスリファンドとして現金で戻ってくる。それがバイヤーの報酬になる。
「現金はポケットに入れて、時計は腕につけて帰ってくればいい。そう指示されるんです」
金の運び屋たちに比べれば、あまりに無防備だ。だが、それでいい。隠さないから、疑われない。
もっとも、それだけでは商品にならない。
化粧箱と保証書がなければ、日本で売る時に値が落ちる。だが箱ごと持ち帰れば、現地で買った新品だとひと目でわかる。
腕に着けて私物を装う手は、使えなくなるのだ。そこでA社は運び方を分けた。
「現地のホテルに、中身を抜いた箱だけをプールしていくんです」
それを、別のバイトが運ぶ。
「箱だけなら税関で止められませんからね」
バイヤーの多くは40代以上の女性だった。
「若者とか頭が切れそうな人は、基本入れないんですよ。不思議と」
理由は明快だった。
「税関で、女性のスーツケースって開けられないんですよ。若者が正規店に行ってもカネがないと見抜かれて売ってもらえない。でもマダム系なら『何かお探しでしょうか』ってエスコートされる。だから主婦は強いと」
税関でも疑われず、現地でも売ってもらえる。
店側は、夫のカードを使うことも促した。財布を握っている主婦が、子育てを終えた女性が、へそくりを作るような感覚で海外に飛んだ。
1日に4、5人。多い時は現地で20人が顔を合わせた。月にすれば150人から200人だ。
動いた金額は、月に6億円。しかしその6億円は、誰のものでもない。
─すべてはバイヤーたちが自分のカードで背負ったカネだった。
高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。
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