スポーツ
Posted on 2026年10月17日 10:02

「世代論」で読むプロ野球〈令和の怪物世代〉(3)勝ち方が決まっていない球団

2026年10月17日 10:02

 村上の渡米を、「三冠王が勢いのまま新天地へ飛び出した話」として描くのは正確ではない。22年12月の契約更改で、ヤクルトと3年契約を結び、25年シーズン終了後のポスティング移籍を球団が容認した。渡米への道筋は、実際に海を渡る数年前から具体化していたのだ。

 目標が具体的な時期と結びつく意味は大きい。いつか挑戦したいという願望と、数年後に違う環境でプレーする前提では、現在の課題の見え方が変わる。これは本人の練習内容を断定するものではないが、少なくとも村上の移籍は、突然現れた機会への衝動的な反応ではなかった。25年12月に結んだホワイトソックスとの契約は、2年総額3400万ドル(日本円=約54億円)だった。

 入団会見で村上は、短期契約について、期間にかかわらず成長することを目標にしていたと説明した。また、米国で成功する自信を問われると、結果を保証するような答えではなく「やり抜く自信はあります」と語った。ここに、挑戦を支える考え方が表れている。

 自分なら必ず打てるという確信と、打てない時期があっても向き合い続けるという決意は違う。前者は予想外の不振によって崩れやすい。後者には、不振そのものを挑戦の一部として引き受ける余地がある。村上の言葉から読み取れるのは、すでに完成した自分を披露する姿勢より、環境が変わった後も成長を続けようとする姿勢である。

 球団選びについても、これから成長するチームの一員になることに魅力を感じたと説明している。勝ち方が出来上がった場所に加わるだけでなく、自分もチームを変える側へ回る。その方向性は、主砲として勝利に関わることを求められる村上の立場とも重なる。

 ただ、本人に不安がなかったわけではない。移籍交渉中の心境を振り返ったインタビューでは、契約が決まらず日本へ戻る可能性も頭をよぎり、岡本和真と連絡を取り合っていたことを明かしている。外から見える堂々とした姿の裏にも、将来が決まらない時間はあった。

 それでも前へ進めたことを、ここでは「軽やかさ」と捉えたい。困難を軽く見たからではなく、不安があることと、挑戦をやめることを切り離せたからである。三冠王という肩書を守るために動かないのではなく、その肩書が通用するかを確かめる場所へ向かう。渡米は、日本での成功を完成品として保存せず、次の成長の材料にする選択だった。

ゴジキ:野球評論家・著作家。「データで読む甲子園の怪物たち」(集英社新書)ほか著書多数。「マネジメント術で読むプロ野球監督論」(光文社新書)が重版出来。発売前から重版となった最新刊「システムで読む甲子園」(カンゼン)が絶賛発売中。Yahoo! ニュースエキスパート。

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