社会

頭部陥没の大ケガで…麻酔もメスもない時代にアンデス文明で行われた「頭蓋骨外科手術」の不思議

 南米ペルーのアンデス地方で紀元前7500年頃に始まったとされる、アンデス文明。文字を持たなかったため、詳細を伝える記録は残っていない。しかし、一部の研究者の間ではかねてから、現在にも通じる驚くべき医療技術が存在していた、という学説がある。

 それを裏付ける研究結果が発表されたのは2013年。カリフォルニア大学教授で考古学者のダニエレ・クリン氏率いる研究チームが、南中央アンデスで古代の遺骨を発掘した際のことだ。

 なんとその中に、頭部に大きな穴が開いた頭蓋骨が多数見つかった。調査の結果、なんらかの原因で頭蓋骨を損傷したり、陥没した人に対し、頭部に穴を開けるなどの外科的手術が施された可能性が確認できたというのである。しかも、その時代が200年代と判明したことで、先の学説の信憑性は俄然、高まった。古代文明を研究するジャーナリストが解説する。

「当時、この地域では先住民の間で、石を投げ合う、あるいはこん棒で殴り合うような争いが日常的に行われていたようです。だから頭蓋骨が陥没する大ケガを負う人もいたのでしょう。発掘された遺骨の中には、一度は陥没した頭蓋骨が、一定の期間を経て治癒した形跡が認められるものも多く、その技術はかなり高度だった」

 とはいえ、現代のように麻酔もなければ、手術用メスもない。いったいどのような方法で、頭蓋骨の外科手術を行っていたというのか。

「その後の調査により、手術用具にはツミ(掻器)や石器のナイフを用い、止血や消毒、痛みに対してはコカの葉のような薬用植物に加え、チチャとよばれるアルコール飲料などが用いられたことがわかりました。だとしても、尋常ではない痛みが伴ったことは想像に難くない。手術は屋外で行われていたと考えられますが、実はヨーロッパでも古代の医術である穿頭術(トレパネーション)が、頻繁に行われたという研究結果があるんです。感染症を防ぐため、手術道具は使うたびに捨てていたようですね。文字もなかった古代の人々が、いかにしてこのような高度な技術を身に付けるようになったのか。実に興味深いのです」

 数十年をかけて穴の開いた800以上の頭蓋骨を研究してきた、米テュレーン大学の形質人類学者ジョン・ベラーノ氏は2016年に、「Holes in the Head : The Art and Archaeology of Trepanation in Ancient Peru(頭に開いた穴:古代ペルーの穿頭術の技術と考古学)」(共著)を出版した。それによれば、この治療が最も盛んだったのは、14世紀から16世紀にかけてのインカ帝国だったのだとか。古代人に外科手術を伝授したのはいったい誰なのか。

(ジョン・ドゥ)

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