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記事全文を読む→金難民〜金塊密輸に魅せられた人々〜〈第4回「シリコン製パッドから外交官まで税関との果てなき攻防を明かした」〉(1)「28歳が妊娠7カ月を装い…」
2014年に消費税が8%に引き上げられると、金密輸の妙味はさらに増した。「使えるものは何でも使う」。密輸グループはあの手この手で、金塊を国内に持ち込もうとするが、税関も傍観しているわけではなかった。知られざる水際の攻防戦を振り返る。
ここに、一枚の写真がある。

金密輸時に税関を出し抜くための、肌色のシリコン製パッドだ。妊婦のお腹を模して成形され、へそまで再現されている。これを女性が腹部に装着すれば、外見上は妊娠に見えることだろう。空洞の内側に、金塊を収める構造になっていた。
写真を見せてくれたのは、東京・新宿を拠点にする半グレの平塚(仮名、当時40代)だ。平塚とは、ヤクザ関係者を通じて知り合った。
「これ、自分が開発したんですよ」
平塚は得意げだった。
そしてこうした手口の広がりに伴走するようにして、取り締まる側も動いた。
2015年10月のことだ。衣服の上から全身を透視し、金属を検知する「ボディスキャナー」の実証実験が成田・関空・羽田の3空港で始まり、16年度以降、国際線が就航する全国の空港へ順次本格導入された。17年11月には財務省関税局が「ストップ金密輸」緊急対策を打ち出し、罰則強化・告発の積極化・没収の徹底など、総合的な対策にも踏み切った。
14年4月1日、消費税8%時代がはじまった。ほどなくすると、税関で捕まる運び屋がぽつぽつと現れた。
まだ「ボディスキャナー」の実証実験がはじまる前とはいえ、手口は粗削りだった。さらにその人数は増えてしまい、状況は悪化した。
そこで、半グレたちは対策に打って出た。
最初の手口は、体への装着だった。下着のお腹部分に仕込む。ブラのワイヤー部分を強化金属に替えて金塊を縫い込む。男性の場合は股間部分に固定する─X線には映る。しかし体型の一部に見せかけることで、検査をすり抜けた。
やがて平塚が見せてくれたシリコンベルトが登場する。
元ネタとみられるのが、13年9月にコロンビアの首都ボゴタのエルドラド国際空港で起きた事件だ。カナダ国籍の28歳の女性が妊娠7カ月を装い、ラテックス製─シリコンに近い素材─の精巧な偽腹の中にコカイン2キロを隠して密輸しようとした。
質問に高圧的な態度を取ったことで税関職員が不審に思い、触診すると「冷たくて異常に硬い」と気づいた。服を脱がせると、背中でストラップ留めする偽腹が現れた。
品物はコカインだったが、ラテックスはシリコンに転換され、この手口は瞬く間に金密輸の世界に広まった。
シリコンと人間の肉体は原子番号が近く、密度も似た軽元素の塊だ。X線画像の上では「本物の腹部の脂肪」なのか「シリコンのパッド」なのかを、色や質感だけで区別するのは非常に難しい。金密輸グループが「シリコンなら肉体と同化できる」と考えたのは、この性質を狙ったためだ。
高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。
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