社会
Posted on 2026年08月09日 18:02

金難民〜金塊密輸に魅せられた人々〜〈第3回「密輸1回の利益は600万円。運び屋の裏切りは許されない」〉(3)香港=御徒町に「金の回廊」

2026年08月09日 18:02

 密輸の現場では、前日から段取りが組まれていた。運び屋が香港で金を受け取った時点で、翌日の換金予約を入れておく。日本に着いて税関を無事通過したら、その足で御徒町へ向かう。

 現金はすでにカウンターに積まれている。金を渡し、現金を受け取る。所要時間は数分だ。その現金がまた香港へ飛んでいく。

「もうその場で潰す感じです」

 金を現金に換えることを、Mは「潰す」と表現した。「入り口」が香港なら、「出口」は御徒町。この2拠点を結ぶ「金の回廊」が、全盛期には毎週フル稼働していた。

 言葉も通じない、土地勘もない香港人のおばちゃんたちが、4キロの金塊を手荷物に入れて成田へ降り立つ。税関には、何の変哲もない旅行者に見えた。

 Mが動員した運び屋のひとつだ。もともと香港と中国・深圳の国境沿いには、生活物資を運んで稼ぐ女性たちがいた。紙おむつ、粉ミルク、日用品─香港から深圳へ、あるいはその逆へ、大きな荷物を抱えて国境を往来する「水貨客(すいかきゃく)」と呼ばれる存在だ。

 彼女たちは群れを成して動き、まとめ役のリーダーが仕切っていた。Mはそのまとめ役に話をつけた。

「飛行機代と宿はぜんぶ持つ。1回10万渡すよって」

 報酬はリーダーにまとめて渡した。分配は任せた。

 もっとも、これは特殊な例だ。多くの場合、運び屋には日本人が使われた。

 あるリクルーター役の男によると、報酬は1人あたり6万円で、名目は二泊三日の香港ツアー。

「報酬と架空の旅行予定表で釣り、ツアーガイドと称して監視役が帯同します。でも実際は観光などさせず、ホテルで缶詰めです」

 運び屋のリクルートは紹介だ。知り合いの知り合い、金に困っている後輩。そうした人間が集められた。

 紹介制にしたのは、素性のわからない人間に金塊を持たせるわけにはいかないからだ。それでも裏切り者は紛れ込んだ。

 事実、運び屋に金を持たせて飛ばしたところ、税関に没収されたと言ってその運び屋が姿を消した。噓だった。押収された金の返還請求に必要な「預かり証」を握ったまま、逃げたのだ。

 税関は、金を押収した際に預かり証を発行する。返還してもらうためには、この書類が必要になる。それを持ち逃げされてしまえば、密輸グループの元に金は戻ってこない。

「当然、捕まえて回収しましたけどね」

 男はそう言って、少し笑った。裏切りは許されないのだ。

 摘発されれば責任を負うのは運び屋だ。監視役でさえ例外ではない。組織の幹部たちは、リスクから遠い場所で結果だけを待っている。捨て駒は、いくらでも補充できた。

 そうした構造のなかに、完璧とも思える「リスク管理」術があった。Mは言った。

「例えば5人に1人当たり5キロの金を持たせる。仮に1人捕まっても、4人が成功すれば利益が出る。そういう計算なんですよ」

 5キロの金の消費税8%分の利益は約150万円。4人が成功すれば600万円の利益が出る。捕まった1人が払う罰金は消費税相当分以下。その他経費を差し引いたとしても、十分に黒字だ。

 犯罪組織は、感情ではなく利益で動く。全体として黒字になれば、密輸は「ビジネス」として成立する。

 では半グレたちは包囲網が狭まる中で、どんな手口で税関を出し抜いてきたのか─。

高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    芸能
    2022年07月05日 17:58

    可愛さ余って憎さ百倍。いやはや、この2人のバトルは本当にすさまじかった。沢口靖子が主演したNHK連続テレビ小説「澪つくし」や、渡辺謙主演の大河ドラマ「独眼竜正宗」の脚本を手掛け、飛ぶ鳥を落とす勢いだった脚本家のジェームス三木氏。ところが19...

    記事全文を読む→
    芸能
    2026年07月31日 06:45

    堺雅人主演ドラマ「VIVANT」(TBS系)が3年ぶりの続編でも、圧倒的な存在感を放っている。第2シーズンの初回放送は、平均世帯視聴率18.8%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)を記録。放送中にはXで世界トレンド1位になった。前作は2023年...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    芸能
    2026年08月06日 17:00

    2024年7月に停車中のロケバス内で共演者の女性に性的暴行をしたとして、不同意性交と不同意わいせつの罪に問われたのは、元お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二被告だ。その第6回公判が8月5日に東京地裁で開かれ、検察側は懲役7年を求刑。...

    記事全文を読む→
    注目キーワード

    人気記事

    1. 1
    2. 2
    3. 3
    4. 4
    5. 5
    6. 6
    7. 7
    8. 8
    9. 9
    10. 10
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/8/4発売
    ■690円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク