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「取引先は今はまだありません」
エレクトロニクスショーが終わって1カ月後、上新電機の本部長である藤原睦朗から日本ソフトバンクに電話が入った。上新電機は大阪にある当時、日本2位の家電販売会社である。
上新電機の社長・浄弘博光は、数日後、日本ソフトバンクの事務所を訪れた。
浄弘は出迎えた孫を見ると、豆鉄砲をくらった鳩のように眼を丸くした。
「藤原が言っていたが、キミか‥‥」
童顔でまだ学生だと言っても通るような青年が出てくるとは思ってもみなかった。しかも、間借りしていた事務所には、机が2つ並べられているにすぎない。何とも閑散としている。
孫の眼には、はたして大規模なソフト売り場の卸を任せていいものかと、判断に困っている浄弘の気持ちが見てとれた。
浄弘はソファに座ると、慎重に話し始めた。
「これからはパソコンの時代です。売り場も大きくして、大々的にやっていきたいと思っているんです」
「そうです。パソコンが大きな意味を持ってくる時代です」
「ところでキミは、どんなことをやりたいんだ」
孫は、自分のビジョンを懸命に説明した。浄弘もまた熱心に耳を傾けた。
説明を聞き終えると、浄弘は孫に聞いてきた。
「取引先はどんなところがあるんだ」
「今はまだ、まったくありません」
「資金はあるのか。大丈夫なのか」
「いえ、ほとんどありません」
ひとつひとつ質問をするたびに、浄弘の表情がゆがんでいった。
「どんなものが品揃えとしてあるの」
「いや、実際に揃えるのはこれからです」
孫は訴えた。
「日本中にあるソフトを一堂に集めて、すべてが揃っている店、日本一の店を作りましょう。だから独占的に品物を供給する権利をください。他からは一切入れない。その代わり、自分も徹底的にやります。やらせていただいたら、他のいろんなアイデアを出します」
孫は一息にまくしたてた。
浄弘社長は、声をたてて笑いはじめた。
「お前、おもしろいやつだ。何もなくて独占させろだと」
が、すぐに真顔にもどって続けた。
「自分の若い時を思い出したよ。お前に賭けてみようじゃないか。全部任せる」
アサ芸チョイス
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