芸能

“淳子超え”で、路線変更した百恵の「青い果実」

 70年代の芸能界は、圧倒的に「歌謡曲」が主軸であった。レコードの売上げだけでなく、テレビも地方営業も、すべては「歌手ありき」で芸能界が動く。そして73年、渦中にデビューした百恵と淳子は、あっという間に主役の座を射止める。それを支えたのはレコード界の仕事人たちであった。

百恵のデビュー曲は失敗だ!

「あの子だったら自分がプロデュースしてみたい」

 73年8月27日、ホリプロの音楽ディレクターだった川瀬泰雄は、担当していた井上陽水とともに日比谷野音の客席にいた。森昌子、石川さゆり、そして山口百恵(53)の「ホリプロ三人娘」と名づけられた合同イベントに、ふらりと寄ってみたのだ。

 川瀬は陽水のほかにモップス、後に浜田省吾を担当するなど「フォーク&ロック畑」にいたが、まだデビュー間もない山口百恵の曲に心を奪われた。

〈あなたが望むなら、私、何をされてもいいわ〉

大胆な内容ではあるが、メロディと詞がピタリと一致した気持ちのいい曲だと思った。9月1日に発売された第2弾シングル「青い果実」のことである。

「彼女がデビュー直後、ホリプロ社内の挨拶回りで会ったんです。その時は清潔感はあるがちょっと地味な子という印象。正直、桜田淳子のほうがかわいいなと思ったくらい。ただ、2曲目を歌う姿には品性の高さを感じ、サビ始まりという曲の構成にも新鮮なインパクトを受けました」

 川瀬は3作目の「禁じられた遊び」(73年11月)から正式に担当ディレクターとなり、百恵が白いマイクを置いて引退する日まで全楽曲に関わった。レコーディングを中心に、音楽面の細部を取りしきった形だが、トータルなプロデュースを担当したのはCBS・ソニーの酒井政利だった。

 酒井は、実は百恵が「スター誕生!」の決戦で合格する以前からデビューの準備を進めていたと言う。「番組の池田文雄プロデューサーから会ってくれないかと言われたんですね。少し個性的だったので、私向きだと思ったようです。私は新人は自分で探すという自負心があったため、本来は『スタ誕』とは距離を置いていましたが、彼女と清水由貴子だけは手がけてみたいと思えた」

 デビュー曲の「としごろ」(73年5月)は、作詞家の千家和也に「見た印象をそのまま詞にしてほしい」と依頼した。サブタイトルに〈人にめざめる14才〉と酒井がつけたのは、南沙織のデビュー曲「17才」と同じように、少女の成長物語と考えたからだ。

 ただし─失敗作だったと酒井は述懐する。最高位で37位、6.7万枚という売上げは「大きなソニー、大きな新人」というレコード会社の看板を掲げたわりには物足りなかった。

「まだ音域が1オクターブ半しかないこともあって、歌そのものが平板な作りになった。同じ中3トリオの森昌子と桜田淳子が走っていたから、これは過激にいくしかないと方向転換したんですね」

 それが「青い果実」に始まる “青い性典路線”であり、ここで一気にベストテンに入る成果となった。一方で中学生の子に思わせぶりな歌詞を歌わせているとの批判もあったが、酒井は意に介さなかった。

「百恵というのは石鹸みたいな清潔感でしたから、変な方向に行くという心配はなかった。性典モノであっても、誰もが通過する成長の記録になればと思った」

 そして酒井は、ここまで無我夢中になれたのは先行する淳子がいたからだと感謝する。百恵の最大の恩人は、同期にして同学年だった桜田淳子だったと─。

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