芸能
Posted on 2025年09月19日 06:45

【追悼】露口茂が今村昌平2作品で担った「オンナの隠れた本性を引き出す」役割/大高宏雄の「映画一直線」

2025年09月19日 06:45

 亡くなった俳優の露口茂さんは30年近く、芸能界などの表舞台に姿を見せなかった。これを今回、知った時、なぜかという疑問はあったが、俳優の生き方として、相当の覚悟を決めた人生だったようにも思えた。

 もっとも、メディア、特にスポーツ紙は訃報を大きく取り上げた。往年の人気テレビドラマ「太陽にほえろ!」の「山さん」という役柄(愛称だが)が大きかったからだ。「山さん」は当たり役だが、映画についての記述は、あまり見なかった。

 露口さんですぐに思い出すのは、今村昌平監督作品だ。「にっぽん昆虫記」(63年)にも出演しているが、なんといっても「赤い殺意」(64年)と「人間蒸発」(67年)の2本だろう。
 ちょっと気がついたのは、女優中心に語られることの多い今村作品の中で男優の確たる「系譜」があり、露口さんは初期作品の代表格であったことだ。
 主演クラスの男優だけで見ると、長門裕之のあとに露口さんが来て、さらに小沢昭一、三國連太郎、緒形拳、そして役所広司らにつながる。

 露口さんの登場は、今村監督が絶頂期を迎える時期と符号する。それはちょうど、監督が主にバイタリティー溢れる女性を主人公にした作品を作っていく時期と重なる。

「豚と軍艦」(61年)の吉村実子、「にっぽん昆虫記」の左幸子は、今村節全開の引き金となり、この時期のエース格となった。そして「赤い殺意」でふてぶてしい女性を演じた春川ますみが現れる。
 この作品で露口さんは、強盗犯にして強姦魔という非道の役を演じた。標的となるのは若き人妻の春川だが、ここで彼の持ち味がかかわってくる。卑劣な犯罪者に対する彼女の態度が、変化していくのである。

 あったのかどうかもわからない憎しみとは裏腹に、彼女からはとぼけた反応が飛び出してくる。この奇態とも言える反応は、彼女の性格や性への貪欲さからも生まれているのだが、どうやらそれだけではないらしい。

 本作の露口さんは強面には見えるが、いかつさはさほどではない。ギラギラした暴力性を誇示するタイプの男でもない。小心で、ちょっとおどおどした接し方さえ見せる。
 春川ますみという俳優しか持ちえないような、大らかさととぼけた味が画面を満たしていくが、それには時おり見せる露口さんのちょっとした「甘さ」が、少なからず影響していたように思う。その後に描かれる彼女のガサツな夫(西村晃)とは、まるで違ったタイプの男なのである。

「人間蒸発」では、失踪した婚約者を探す女性と一緒に行動を共にする、露口茂本人として登場する。ドキュメンタリー的な手法で進むが、しだいに虚構部分が混じり合い、作品の様相が変わる。

 この作品で露口さんは捜索の途中で、女性に好かれてしまうのである。「赤い殺意」のシチュエーションとは全く違うが、ここでも甘さを染み込ませた風貌や態度(しかも、素の露口さん)が、女の気持ちをとらえていくように見えた。

 今村作品は、人間の本性を白日の下にさらす。その演出手法は時にグロテスクで、笑い(重喜劇と呼ばれた)をかもす。これがかなりきわどい描写にもつながるが、当時は何のわだかまりもなく作品を受け止めていた。

 露口さんは今村作品で、女性の隠されていた本性(かどうかもわからない)を引き出す役割を担っていたのではないか。それを考えてみると、今村作品に今まで以上の世界の広がりが見えてくるのだ。

 俳優はいろいろな役柄を演じていく。その中で露口さんは一本、筋が通っていたように感じられてならない。二枚目然とはしていないが、どこか折り目正しく、周囲や相手が信じてもいいような役柄が多かった。ありきたりな言い方で申し訳ないが、本当にいい俳優だったと思う。

(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)、「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2025年に34回目を迎えた。

全文を読む
カテゴリー:
タグ:
関連記事
SPECIAL
  • アサ芸チョイス

  • アサ芸チョイス
    社会
    2026年03月01日 08:15

    毎晩、家族でテレビを囲む。その画面の向こうで、こちらも「見られている」かもしれない。そんな話が近年、じわじわと広がっている。「盗聴装置が仕込まれている」「スパイ機器だ」……。SNSに流れる過激な言葉をそのまま受け取る必要はない。だが「スマー...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    社会
    2026年03月01日 08:30

    3月16日の確定申告期限が刻一刻と迫る中、国税当局が不穏な動きを見せている。ターゲットは、SNSやマッチングアプリを主戦場に男性らから多額の「手当」を吸い上げるパパ活女子、そして華やかな生活を売りにするインフルエンサーたちだ。かつては「男女...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    エンタメ
    2026年03月03日 07:00

    小学館の漫画アプリ「マンガワン」をめぐる問題が、波紋を広げている。発端は、過去に児童買春・ポルノ禁止法違反で罰金刑を受けていた漫画家が、別名義で新連載を開始していたことだ。編集部は起用判断の不備を認め、当該作品の配信停止と単行本の出荷停止を...

    記事全文を読む→
    カテゴリー:
    タグ:
    注目キーワード

    人気記事

    1. 1
    2. 2
    3. 3
    4. 4
    5. 5
    6. 6
    7. 7
    8. 8
    9. 9
    10. 10
    最新号 / アサヒ芸能関連リンク
    アサヒ芸能カバー画像
    週刊アサヒ芸能
    2026/2/24発売
    ■650円(税込)
    アーカイブ
    アサ芸プラス twitterへリンク