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記事全文を読む→【追悼】露口茂が今村昌平2作品で担った「オンナの隠れた本性を引き出す」役割/大高宏雄の「映画一直線」
亡くなった俳優の露口茂さんは30年近く、芸能界などの表舞台に姿を見せなかった。これを今回、知った時、なぜかという疑問はあったが、俳優の生き方として、相当の覚悟を決めた人生だったようにも思えた。
もっとも、メディア、特にスポーツ紙は訃報を大きく取り上げた。往年の人気テレビドラマ「太陽にほえろ!」の「山さん」という役柄(愛称だが)が大きかったからだ。「山さん」は当たり役だが、映画についての記述は、あまり見なかった。
露口さんですぐに思い出すのは、今村昌平監督作品だ。「にっぽん昆虫記」(63年)にも出演しているが、なんといっても「赤い殺意」(64年)と「人間蒸発」(67年)の2本だろう。
ちょっと気がついたのは、女優中心に語られることの多い今村作品の中で男優の確たる「系譜」があり、露口さんは初期作品の代表格であったことだ。
主演クラスの男優だけで見ると、長門裕之のあとに露口さんが来て、さらに小沢昭一、三國連太郎、緒形拳、そして役所広司らにつながる。
露口さんの登場は、今村監督が絶頂期を迎える時期と符号する。それはちょうど、監督が主にバイタリティー溢れる女性を主人公にした作品を作っていく時期と重なる。
「豚と軍艦」(61年)の吉村実子、「にっぽん昆虫記」の左幸子は、今村節全開の引き金となり、この時期のエース格となった。そして「赤い殺意」でふてぶてしい女性を演じた春川ますみが現れる。
この作品で露口さんは、強盗犯にして強姦魔という非道の役を演じた。標的となるのは若き人妻の春川だが、ここで彼の持ち味がかかわってくる。卑劣な犯罪者に対する彼女の態度が、変化していくのである。
あったのかどうかもわからない憎しみとは裏腹に、彼女からはとぼけた反応が飛び出してくる。この奇態とも言える反応は、彼女の性格や性への貪欲さからも生まれているのだが、どうやらそれだけではないらしい。
本作の露口さんは強面には見えるが、いかつさはさほどではない。ギラギラした暴力性を誇示するタイプの男でもない。小心で、ちょっとおどおどした接し方さえ見せる。
春川ますみという俳優しか持ちえないような、大らかさととぼけた味が画面を満たしていくが、それには時おり見せる露口さんのちょっとした「甘さ」が、少なからず影響していたように思う。その後に描かれる彼女のガサツな夫(西村晃)とは、まるで違ったタイプの男なのである。
「人間蒸発」では、失踪した婚約者を探す女性と一緒に行動を共にする、露口茂本人として登場する。ドキュメンタリー的な手法で進むが、しだいに虚構部分が混じり合い、作品の様相が変わる。
この作品で露口さんは捜索の途中で、女性に好かれてしまうのである。「赤い殺意」のシチュエーションとは全く違うが、ここでも甘さを染み込ませた風貌や態度(しかも、素の露口さん)が、女の気持ちをとらえていくように見えた。
今村作品は、人間の本性を白日の下にさらす。その演出手法は時にグロテスクで、笑い(重喜劇と呼ばれた)をかもす。これがかなりきわどい描写にもつながるが、当時は何のわだかまりもなく作品を受け止めていた。
露口さんは今村作品で、女性の隠されていた本性(かどうかもわからない)を引き出す役割を担っていたのではないか。それを考えてみると、今村作品に今まで以上の世界の広がりが見えてくるのだ。
俳優はいろいろな役柄を演じていく。その中で露口さんは一本、筋が通っていたように感じられてならない。二枚目然とはしていないが、どこか折り目正しく、周囲や相手が信じてもいいような役柄が多かった。ありきたりな言い方で申し訳ないが、本当にいい俳優だったと思う。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)、「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2025年に34回目を迎えた。
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