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記事全文を読む→佐藤誠「取調室の裏側」〈警察官の採用に「飛び級」を導入。民間出身の上司との働き方改革〉
警察組織にも、働き方改革と深刻な人材確保の波が押し寄せている。山梨県警は今年6月、原則として「巡査」から始まる階級の壁を破り、全国初となる社会人経験者の「巡査部長」採用という飛び級制度を導入。続く7月には、山口県警も追随した。
背景にあるのは、深刻ななり手不足だ。近年の警察官採用試験の受験者数は、20年前の4分の1まで激減。首都の治安を担う警視庁でさえ、定員に対して約3000人もの不足問題を抱えており、かつてない治安危機に直面している。
この未曾有の事態を乗り越えるため、各県警は採用の窓口を広げているが、民間人材の獲得に舵を切る理由は、単なる「頭数合わせ」だけではない。最大の要因は、犯罪の高度化だ。
その象徴である特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は、昨年だけで3257億円と過去最悪を記録。関与が指摘される「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」は、サイバー空間や巧妙な金融システムを駆使して警察網をすり抜けていく。こうした知能犯罪に対抗するため、民間で高度な専門知識を培った「エキスパート人材」を招き入れ、即戦力として活用する。それこそが「飛び級制度」の狙いだ。
もちろん新制度の試みは理解できる。だが懸念を抱くのは、警察官たちの感情の摩擦と組織の秩序の維持だ。厳格な階級社会において、巡査部長は最前線で陣頭指揮を執り、的確な指示を出す立場にある。民間からいきなりその階級に放り込まれた「経験ゼロ」の上司が、どうして泥臭い現場の空気を読み取れるというのか。
事件現場は教科書通りにはいかない判断の連続で、わずか数分の迷いが生死を分けることすらある。一触即発の被疑者と対峙した時に毅然とした態度で振る舞えなければ、部下たちが命を預けられるわけがない。
だからこそ、飛び級制度の採用者が仲間として馴染むには、スマートな「負け方」を知っていることが不可欠だ。「専門分野は得意だが、現場のことは教えてほしい」――その事実を素直に認め、頭を下げられる度量があるのか。それが組織の秩序を守り、即戦力になれるかの分かれ道となる。
対策として提言したいのが、同階級のベテランを指導員に据え、二人三脚のコンビを組ませること。警察特有のルールや現場の「呼吸」を間近で学べるだけではない。職場での孤立を避ける防波堤にもなるだろう。
いずれにせよ、山梨県警の試みでは、わずか3名程度の採用予定枠に対し、大幅に上回る110名もの応募が殺到した。度重なる不祥事の報道で逆風の中にある警察組織であっても、そこにやりがいを求めてくれる民間人材が多く存在する。この事実が示すのは警察組織の持つ可能性ではないか。最新の治安状況に応える体制に進化を遂げられるだろう。
佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。
佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/
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