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記事全文を読む→佐藤誠「取調室の裏側」〈「遺体なき殺人」を立証させる。絶対に隠しきれない不審な足跡〉
警視庁を退官して4年。人生でやりたいことはないかと考えた時、「生きる伝説」と称賛されるドジャース・大谷翔平の雄姿を現地で観たいと思った。
担当編集者に伝えると、渡米こそ快諾されたものの休載は認められず、出発直前に「宿題」を出された。
「遺体が発見されなくても殺人を立証できるのか?」
――喫煙者の俺にとって、長時間のフライトは苦行に近い。たばこへの欲求を紛らわすためにも、機内ではこの「遺体なき殺人」について筆をとることにする。
今年の4月30日に旭山動物園(北海道旭川市)の元飼育員・鈴木達也被告が死体損壊容疑で逮捕された。自宅で妻を殺害後、遺体を園内の大型動物用焼却炉で焼き、完全犯罪の成立を目論んだ凄惨な事件だ。
焼却炉から遺体の一部が発見されたが、人間の骨盤や大腿骨は太くて厚みがある。火葬場の最新設備でも骨の形が残る以上、完全に消し去るのは難しい。仮に鈴木が骨を砕き、灰を海に撒いても、逮捕される結末は同じだったはずだ。
89年に元監察医・上野正彦氏の著書「死体は語る」がベストセラーとなって以来、今でもそのフレーズが一人歩きしている。そのおかげでよく勘違いされているのだが、上野氏の見解は監察医や検視官の視点に過ぎない。
刑事に言わせれば、真相を語るのは必ずしも遺体ではない。事件の全貌を何よりも雄弁に物語る犯人と被害者の行動である。
どんなに遺体を完璧に処理したと思っても、生前に被害者が刻んだ生活痕跡まで消すことはできない。そのため、遺体の有無は捜査を開始する上で、絶対条件ではない。
刑事は被害者が「生きている可能性」を徹底的に潰し、死亡している事実を客観的に立証することから始める。
生きる痕跡を示す典型が預金口座の動向だ。警察の要請で10年以上、口座を残させて、監視を続けるケースも珍しくない。当然、携帯電話やクレジットカードの使用、SNSの更新も精査する。あまり知られていなかったのは、たばこの自販機購入時に使用するICカード「タスポ」が履歴確認できること。そこから犯行直前の被害者の足取りを追跡したこともあった。
生存の可能性が消滅したと判断できれば、「最後に被害者と接触した人間」を絞り込む。そこから金銭トラブルや男女間の愛憎など深い怨恨を洗い出し、犯行の動機へとつなげていく。
目撃者や確たる証言が得られずとも、犯人が遺体を処理するために動いた「不審な足跡」は必ず歪みとして表れる。気の遠くなるような作業を続け、犯人の関与を裏づける客観的な「状況証拠」を一つずつ積み上げて真相へと肉薄していくのだ。刑事の目を欺こうと、完全犯罪を目指すのはやめたほうがいい。犯人の足跡が一切残らない殺人など存在しないのだから。
佐藤誠(さとう・まこと)警視庁捜査一課殺人犯捜査第一係、通称「サツイチ」の元取調官。1983年、警視庁入庁。2004年に捜査一課に配属。『伝説の落とし屋』と呼ばれる。「木原事件」で木原誠二氏の妻・X子さんの取調べを担当。2022年に退官。
佐藤誠の相談室
https://satomakoto.jp/
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