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80年代黄金ヒロインたち・最終回 池上季実子

 その美貌は10代のうちから群を抜き、卓越した表現力で多くの名作にも恵まれてきた。ただし、池上季実子のスタンスは常に変わらず、芝居を楽しみながら「来た仕事に全力を尽くす」というもの。デビュー以来、普遍だった法則に変化が起きたのは「陽暉楼」という大作だった──。

ケンカシーンにマスコミ殺到
〈女は競ってこそ華、負けて堕ちれば泥〉
 原作・宮尾登美子、監督・五社英雄による文芸ロマン「陽暉楼」(83年/東映)に添えられたキャッチコピーだ。主演は、これが初めての五社作品となる池上季実子(53)で、華を競う相手・珠子には浅野温子が扮している。
 舞台は昭和初期の土佐・高知で、.客の男・太田勝造(緒形拳)と、その娘で遊女になる桃若との愛憎を描く。舞台は土佐一番の料亭である「陽暉楼」で、桃若は唄も踊りも一流の芸妓という設定。この桃若役が池上だが、周囲の喧噪も気にはならなかったと言う。
「私の中では、いただいた1つのお仕事として素直に受けるだけなんですよ。それがケンカのシーンの撮影にマスコミの方がいっぱい来たり、キャンペーンに行ったら人がたくさんだったり、賞も含めて、すごいことになっているんだと思いましたね」
 この作品で池上は、日本アカデミー賞・主演女優賞に輝いた。また「鬼龍院花子の生涯」(82年)に続く東映の文芸大作ということで、宣伝体制にも力が入っていた。冒頭のコピーを含むスポットCMは大量にオンエアされ、マスコミ公開撮影も一部、行われた。
〈気取りやがって!〉
 たったそれだけの理由で桃若にケンカを吹っ掛けるのが珠子である。2人はダンスホールのトイレにこもり、水浸しになりながら取っ組み合う。
〈放しや! 着物が汚れるき〉
 土佐弁でタンカを切る桃若。カツラを珠子にはぎ取られるほどの激しい格闘だったが、やがて2人は、互いを認め合うようになる。
 池上だけでなく、浅野も同作品で助演女優賞を獲得しているが、威勢のいいセリフが随所に飛び交う。
〈あたしは女郎になるんだよ。うちのこの身体、うんと高う売ってや〉
 そう宣言して着物の前をはだけ、緒形扮する勝造に若き乳房を見せつける。五社作品にはおなじみと呼べるシーンだろう。
 さて、池上にとって初めての「五社演出」はどうだったか──、
「五社監督は、1日に1シーンしか撮っていかない人。ライティングに始まって、本当に1カットずつを丁寧に撮っていく監督でした。表現するならば、汗臭さを感じさせない時間の使い方でした」
 同作における桃若の、女としての見せ場は物語中盤にやってくる。地元財界の将来を担う銀行御曹司に見初められ、戦前の地方都市にはモダンなバーのカウンターで、若き俊英の情熱を受け止める。着物を着たままではあるが、カウンターの台上という特殊な空間によって、ことのほか官能的な場面に仕上がった。
「私は23歳だったんですね。あのカウンターの上でのラブシーンというのは監督のアイデアでした」
 やがて、結ばれることのない一夜の契りにより、桃若は子を宿す。売れっ子の芸妓でありながらお腹を大きくし、臨月を迎えて苦悶の表情で言う。
〈男はみんな、オナゴの敵や!〉
 それは映画の完成直後に、池上自身にも重なってくるセリフだった・・・。
 それは不思議としか言いようのない光景だった。池上は実の弟と2人で、東急文化会館にいた。やがて、マスコミには「広告代理店勤務のAさんと密会!」と書かれた。肩書きは合っているだけに、苦笑するしかなかった。
「ちょうど映画の公開に合わせて、1カ月で15人の男性の名が登場したわ。その13番目が弟だったのね。そこまで勝手に『恋多き女』と書かれると、女優でいることすらバカらしくなって。私、『この世界やめる!』って言っていましたから」
 ある日などは徹夜のロケを終えて、自宅近くで旧知の芸能レポーターと散歩の途中に談笑した。ところが、同じ日の行動は「俳優○○が池上の自宅を訪ねた」とすり替わる。
 テレビ局に仕事で行ったら、架空の話に大勢のレポーターが詰めかける。その1人には、アリバイを知っているはずの旧知のレポーターまで交じっていた。
「それから半年、一切の仕事をしなかったですね。ようやく『化粧』(84年/松竹)に出演を決めるまで、そういう状態でしたよ」
 近年、石田純一がバラエティ番組でたびたび明かすエピソードがある。まだエキストラだった当時の石田が、売れっ子の池上をナンパすると「私は主演女優よ」と言って断られたというのだ。ただし、この話はバラエティらしい尾ひれがついていると池上は言う。
「そもそも彼から、いつそんな誘いがあったかも憶えていないけど(笑)、私の宣言は変わらないの。それは『同業者とは恋愛をしない』ということ」
 撮影中は役のイメージでお互いが引かれ合うことはあっても「お疲れ様でした」の声とともに振り落とすことができる。先輩俳優からの誘いには、大勢でならと釘を刺す。それが「恋多き女」と呼ばれ続けた池上の偽らざる姿である。
 池上は、70年代の芸能界に革命を起こした「中3トリオ」と同い年である。堀越学園では森昌子、岩崎宏美、伊藤咲子、岡田奈々らと机を並べてきた。彼女らと同じく、池上も15歳の若さで芸能界に飛び込んでいる。もともとは梨園の名門である坂東三津五郎の一家と縁戚であり、京都に育った。
「当時、両親が離婚でもめていて、私も早い段階から食べていく手段を考えていました。本当は絵が好きだったんだけど、それでは収入にならないだろうと気づいていました」
 両親の離婚が成立すると、母親とともに上京。すぐにスカウトされて女優としての一歩を踏み出す。周りに歌舞伎役者が多くいたこととも無縁ではなかった。
「親戚中がどうして芸能なのかという興味があって。いざ自分が現場に入ってみると、朝から晩までの撮影が本当に楽しかった。いつも両親がいた世界と違って、すべてが新鮮だったし、絵よりも役者で食べていけるなと思いましたね」

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