政治

G7広島サミット「核軍縮ビジョン」を猛批判した被爆者と読売新聞の「矛盾と現実」

 ウクライナのゼレンスキー大統領のサプライズ訪日もあった広島G7サミットで、目を疑う記事が出た。最終日の5月21日に配信された読売新聞の〈カナダ在住の被爆者サーロー節子さん「広島で開いた意味がない」…G7首脳声明を批判〉がそれだ。

〈核兵器の非人道性を訴え続けているカナダ在住の被爆者、サーロー節子さん(91)が21日、広島市内で記者会見し、議論の成果をまとめた「首脳声明」について「核抑止が前提になっている。私たち被爆者が経験したことをわかってくれたのか。広島で開いた意味がない」と批判した〉

 そう話したというサーロー節子氏と読売新聞の背景を紐解くと、自己矛盾だらけの戯言だとわかる。

 サーロー氏は岸田文雄総理大臣の遠戚にあたり、生家はドイツ人実業家とアメリカで果実業を営んでいた。彼女は戦後、原爆を落としたアメリカに留学した。

 その出自から「核兵器廃絶」のアンチテーゼを説いているのかもしれないが、渡米した1954年以降、アメリカの核の庇護のもと、70年近く生きてきた人物がロシアと中国、北朝鮮の核の脅威に晒される日本の安全保障に口出しするのはどうなのか。

 読売新聞も同様だ。同社社主であった正力松太郎氏は「原子力の父」「日本プロ野球の父」「読売巨人軍の父」「民放テレビの父」とも呼ばれる。プロ野球に「正力賞」があるのはそのためだが、正力氏は戦後、米アイゼンハワー大統領が説いた「平和のための原子力」「平和のための核利用」を日本に浸透させるためCIAに協力したと、アメリカの公文書に残っている。

 今も正力家は読売新聞の株主であり、松太郎氏の孫は読売新聞社の役員だ。なにより松太郎氏の右腕であった渡辺恒雄代表取締役兼主筆が隠然と君臨する読売新聞で、「核の抑止力」を批判する記事は、かなり異様に映る。主筆がチェックした記事とは思えず、渡辺氏の求心力の低下が懸念されるのだ。

 サーロー氏だけでなく、広島の被爆者団体が「G7の成果はなかった」と批判するのは自由だが、核兵器で現状変更をせんとする日本国内のロシア大使館や中国大使館、北朝鮮関連施設前で抗議活動もせず、先進国や日本国内に向かって吠えるだけで、何か変わるのか。

 筆者はツアーナースといって、修学旅行に帯同する副業を持つ。広島、長崎の悲劇が風化しつつある今では「原爆資料館」を見た後で「あー。気持ち悪かったー」とヘラヘラ笑って資料館をあとにする日本の高校生が1クラスあたり5人や6人では済まなくなっている。それが現実なのだ。

 広島の被爆者団体が今の日本人の温度感とかけ離れた主張をすればするほど、原爆被害を伝えるニュースや記事が敬遠され、被爆者を「気持ち悪い」「メンドクセー」と言う若者が増えるのではなかろうか。

 米バイデン大統領や仏マクロン大統領が原爆資料館を訪れた後に悲痛な表情を浮かべ、ゼレンスキー大統領が「現代の世界に核による脅しの居場所はない」と記帳した広島G7が、核戦争を回避する「バタフライエフェクト」になることを祈っている。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

カテゴリー: 政治   タグ: , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    自分だけの特別な1枚が撮れる都電荒川線の「マニアしか知らない」撮影ポイント

    「東京さくらトラム」の愛称で親しまれる都電荒川線はレトロな雰囲気を持ち、映えると評判の被写体だ。沿線にバラが咲く荒川遊園地前停留所や三ノ輪橋、町屋駅前は人気の撮影スポット。バラと車両をからめて撮るのが定番だ。他にも撮影地点は多いが、その中で…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

    テレビ業界人が必ず見ているテレビ番組「次のブレイクタレント」「誰が最も面白いか」がわかる

    「業界視聴率」という言葉を、一度は聞いたことがあるはずだ。その名の通り、テレビ業界関係者が多く見ている割合を差すのだが、具体的なパーセンテージなどが算出されているわけではない。いずれにしても、どれだけ業界人が注目して見ているかを示す言葉だ。…

    カテゴリー: 芸能|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
「アナタは大谷翔平じゃない」鈴木誠也のカブス終戦〝監督が罵倒〟の盗塁死は「高校野球でも懲罰もの」
2
堀内恒夫委員長の発言が…巨人・菅野智之が15勝しても沢村賞「該当者なし」になる「ある条件」
3
【サッカーW杯予選】韓国代表は「全試合アウェー」だ!オマーン戦で「選手の妻」が吊るし上げられる緊急事態
4
「ミヤネ屋」宮根誠司が女子アナとゲストを困らせた「ニュースが理解できない」事件
5
「ZIP!」も「ウイニング競馬」も長期欠席…ジャングルポケット・斉藤慎二に「不穏な理由」