外出先から家に戻ると愛猫の態度が一変、やけによそよそしくなったという経験を持つ飼い主はいるだろう。
これまでの研究で、人間の顔を写真などで識別できる犬とは異なり、猫が人を識別する場合、視覚はさほど重要ではなく、むしろ人の声のトーンや話し方の癖、またはその人の歩く速さや歩き方、しゃがみ方、そして匂いの違いが重要な役割を担っていると考えられてきた。
ただ、猫がどうやって飼い主とそれ以外の人間を見分けているのかは、大きな謎だった。その疑問を解き明かすべく、東京農業大学の研究チームが30匹の飼い猫に実証実験を行い、それが論文として発表されたのである。
実験チームが実施したのは、ペットとして飼われている11匹のオスと19匹のメス。猫たちの前に、飼い主17人と、全く接点のない8人の「匂い」をつけたサンプル(「飼い主の匂い付き」「他人の匂い付き」「無臭」の3種類)を置き、どんな動きをするかを観察。するとほとんどの猫が、馴染みのある「飼い主の匂い」を左の鼻孔で嗅ぎ、未知である「他人の匂い」は右の鼻孔で嗅いでいたことが判明したのだ。
さらに観察を続けると、次に猫たちは右の鼻孔で未知の匂いを嗅いだ後、それを左の鼻孔にスイッチ。猫が左右の鼻孔を使い分け、それを左右の脳に伝達しているのではないかと、研究チームは推察した。つまり、猫は「新しい刺激」を右脳で、「既知の刺激」を左脳で処理し、飼い主を見分けている可能性が高いことがわかったのである。
だからこそ、猫は飼い主が外出後、その衣類についた「他人の匂い」に戸惑い、突如として反応を変えてしまう。同様に、飼い主が普段と違う香水や柔軟剤、整髪料など「違う匂い」をつけた時に猫が警戒心を示すのは、そんなメカニズムによるものだという。
この研究結果は5月28日付の国際学術誌「PLOS One」で発表されているので、興味がある方は一読してみてはいかがだろうか。
(灯倫太郎)