社会
Posted on 2025年06月15日 05:58

たった5万円で…エッフェル塔にハマッた猫の大満足な日常生活

2025年06月15日 05:58

 我が家では今、3匹の猫を飼っているが、かつては2021年にガンで死んだ、ジュテというハチワレ猫がいた。実はこのジュテをパリに連れて行くことができないだろうか、と思ったことがある。

 コロナ前は毎年のようにパリやフランス各地、それからイギリス、イタリアなどの周辺諸国に旅行に出かけていた。そして一度でいいから自由気ままな猫、ボヘミアンのジュテをパリに連れていき、エッフェル塔のテッペンまでのぼって、パリの街を見せてみたい…と。

 題して「エッフェル塔にのぼった猫」。フィクションでもノンフィクションでも、その様子を書き残してあげたいと思っていた。

 飛行機に乗せるにはどうすればいいのか。客席のそばに置いてもいい、いや猫は器物扱いだから、貨物と一緒のスペースに入れられる…。猫への対応は各航空会社によって異なり、猫OKの会社、NGの会社があるとか。いろいろ調べてみた。

 フランスには動物とそのまま入国できるが、帰国したら検疫があるので、1週間ほど成田や羽田に留め置かれる、なんて話も聞いた。本当のところはよくわからなかった。

 飛行機に乗せたとして、1万メートル上空の気圧に、猫が耐えることができるかどうか。人間でも耳が詰まって往生することがあるが、そんな時に猫はどうするのだろうか。睡眠薬を処方してもらって、ずっと眠らせて連れていくのか。連れていけたとして、ジュテはおとなしくエッフェル塔をのぼってくれるだろうか。

 いや、連れていくのはいいけど、1週間か10日足らずで帰国しなければならないわけで、人間でもストレスがあるのに、猫は耐えられるだろうか。動物虐待ではないか。いっそのこと、パリに移住することにして、連れていく方法をきっちり調べ上げて、ジュテとパリ生活を楽しむことにしようか…。

 そうやってあれこれ思いを巡らせ、結局はどうすればいいのかと途方にくれた。

 そんな夢みたいなことを考えながら、時は過ぎていくばかりだった。そうこうしているうちに、ジュテとエッフェル塔がついにつながった。

 ある日、家にいると、連れ合いのゆっちゃんから電話があった。

「今、中目黒の骨董屋さんみたいなところにいるんだけど、エッフェル塔があるの。それを買いたいんだけど、いいかな」

 いったい何を言っているのかわからない。絵描きのゆっちゃんは、20代でパリに留学していた。エッフェル塔の絵も描き、それが時々に売れた。エッフェル塔への想いは強い。

「エッフェル塔って、どんな? お土産品?」

 それなら別に断ることもないわけで、

「鉄の大きな塔みたいなヤツ。それに金メッキだと思うけど、塗装されているの」

「大きさは?」

「私の背丈より大きい。1メートル80くらいはあると思う」

 エッフェル塔の巨大なミニチュア? 変な言い方だが、そんなふうにイメージしてみた。ひと言でいえば、エッフェル塔のオブジェだ。

「エッフェル塔を描く時に参考になるし、やっぱりエッフェル塔は美しいわ。リビングの隅っこに置けると思うけど」

 数日後、エッフェル塔が運ばれてきた。搬送費を含めて5万円。ゆっちゃんによれば、

「本当は10万円だけど、閉店セールなので半額にしてくれた」

 この話を聞いた時には、すでにピンときていた。ジュテをエッフェル塔まで連れていくことができないなら、せめてエッフェル塔の傍で遊ばせてやりたい。

 その思惑はドンピシャだった。このミニチュアにのぼることはできないけど、ジュテはエッフェル塔の下に姿よく収まり、満足げだった。この猫はこういうところでも、飼い主と通じるところがあった。

 マンションから戸建てに引っ越してからは3階のフリースペースにエッフェル塔を置くことにしたのだが、ジュテはエッフェル塔の下でよく佇んでいた。居心地がよかったのだろうか。

 不思議なのは今、飼っている3匹のうち、クールボーイはたまにエッフェル塔の下にいることがあるが、ガトーとそうせきはほとんど関心を示さないことだ。単なる置き物としか認識していないのかもしれない。

 そんなわけで、このエッフェル塔のオブジェを見るたびに、ちんまりと賢そうな眼差しでこちらを見ていたジュテを思い出す。

 ああ、やっぱりパリに連れていきたかった。エッフェル塔から見るパリの風景は、ジュテの目にはどんなふうに映っただろうか…。

(峯田淳/コラムニスト)

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