社会
Posted on 2025年12月14日 10:00

ホントーク〈小泉悠×名越健郎〉(1)豊かな択捉島の大自然は圧巻!

2025年12月14日 10:00

「北方領土を知るための63章」
名越健郎・小泉 悠・編集・著 他3名/2640円・明石書店

 停滞している「北方領土問題」で高市首相が解決に向けて取り組む決意を示したが、はたしてうまくいくのか? 東大准教授でロシアの軍事・安全保障の専門家の小泉悠氏と名越氏が北方領土の素顔と解決への道筋を提言する。

名越 小泉さんはロシアの軍事・安全保障の専門家で、22年のウクライナ侵攻以降は、テレビにも数多く出演されており、読者にもおなじみです。11月にはロシア外務省が発表した「入国禁止リスト」30人に名前が挙がったこともメディアで報じられました。このリストには私も選ばれる“栄誉”にあずかったのですが、小泉さんはどう受け止めていますか。

小泉 僕は1人1人の名前というより「日本人30人をBANした」事実そのものが彼らのメッセージだと解釈しました。

名越 24年にはトヨタの豊田章男会長やJICA(国際協力機構)の田中明彦理事長など、経済界の大物の名前が多かったですね。

小泉 あれは「ロシアとはもう商売できなくなるぞ」というメッセージだと思います。

名越 今回は私や小泉さんを含めて、学者やジャーナリストが多いのは、なぜだと思いますか。

小泉 恐らく、10月にトランプ大統領が日本に対して「ロシア産のLNG(液化天然ガス)」の輸入停止を求めてきたのに、高市総理はこの要求を断りました。そのことに対するロシア政府から「よく抵抗したな」という“お褒めの言葉”として“しがない学者”で勘弁してやった、というメッセージではないでしょうか。ロシアが本気で脅す時は、トヨタ会長みたいな大物をターゲットにすると思います。

名越 その視点は気づきませんでした。本題に入りますが、今回、私と小泉さんら18人のジャーナリストや専門家で北方領土をテーマに、この本を執筆しました。

小泉 執筆者の大半が北方領土を訪問しているので内容もリアル。入門書として最適だと思います。

名越 今、北方領土に関心がある日本人は少なくなっています。安倍元総理とプーチン大統領の交渉が決裂して以降、メディアでもほとんど報じられなくなりました。内閣府の調査では、国民の36%が北方領土問題を「知らない」と回答したそうです。

小泉 それは深刻ですね。このままでは問題が風化する危険すらあります。ところで名越さんは何回、北方領土を訪れましたか。

名越 95年以降、国後、択捉、色丹とビザなし交流で計4回行かせてもらいました。最初の訪問では、島の手付かずの大自然に圧倒されました。小泉さんも2回行かれたそうですね。

小泉 僕も国後島、択捉島を訪問しました。最初に訪れた13年当時は、択捉島の中心部以外は、核戦争後の廃墟のようで「ここは21世紀の地球なのか」というのが第一印象でした。択捉島で新空港の建設が進んでいて現場も見せてもらいましたが、労働者たちが「ロシアが給料を払ってくれない」と愚痴っていました。しかし、18年に再訪すると様子は一変、国後島も択捉島の人たちも、自信満々の顔つきで「日本人がいなくても大丈夫」という雰囲気でした。応対してくれるのも地元の人ではなく、サハリンや本土から来た役人ばかりで、対応も冷たく、公式見解しか話さない。「日本人が来るなら別に構いませんよ」という程度です。

ゲスト:小泉悠(こいずみ・ゆう)1982年千葉県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授。早稲田大学社会科学部、同大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。民間企業勤務を経て、外務省専門分析員、未来工学研究所研究員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、国立国会図書館調査員等を経て19年に東京大学先端科学技術研究センター特任助教。23年より現職。

聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。

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