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Posted on 2026年03月01日 10:00

江上剛が選ぶ今週のイチ推し!〈原点は経営陣の「名誉欲」東芝経営崩壊の全内幕!〉

2026年03月01日 10:00

「東芝 転落の深層 経営不祥事と裁判」
久保誠・著
朝日新聞出版/1650円

 15年に発覚した東芝の「不正会計問題」を描いた私の小説「病巣 巨大電機産業が消滅する日」(朝日文庫)では、混迷する経営を若手社員が結束して立て直しに奔走する。彼らの活躍に希望を託したのだが、現実は甘くなかった。東芝は迷走を重ね、今やファンドの傘下に入り非上場企業となってしまった。

 著者は東芝の財務責任者として真摯に経営に向き合ってきたにもかかわらず、会社から億単位の損害賠償請求訴訟を起こされ、現在も訴訟が継続中である。

 本書を著したのは、東芝が経営の失敗を「財務経理部門のガバナンスの問題」として矮小化し、経営者による「経営不祥事」であることを直視しないことに怒りを覚えているからである。「不正経理を経営不祥事として直視しない限り、東芝の真の再建はない」という切実な思いに、読者は胸を打たれるだろう。

 東芝の不正経理は米国・原子力関連企業、ウェスチングハウス(以下WEC)の買収失敗とパソコン部門のバイセル案件が主である。

 06年、西田厚聰社長(当時)が、6000億円以上でWEC買収を実行した。ところが、11年の東電福島第一原発事故で、世界中で原子力発電の見直しが始まった。東芝は多大な損失を被り、これが不正経理を誘発することになった。買収前に、米国の現場を視察した著者は、工事を請け負っている会社がまともに仕事をしていないことに気づく。ところが経営陣は買収に踏み切った。本来、責任を取るべき現地法人の経営陣を会社は訴えなかった。第三者委員会も買収失敗の責任を直視せず「財務上の過失である」と位置付け、著者を訴える。「まるで最初から誰かを悪者にして責任を取らせる」シナリオができていたのではないかと著者は疑問を抱く。

 本書で最も興味深いのは(失礼だが)、「西田氏と佐々木則夫氏のいがみ合い」が詳細に書かれている章だ。西田氏が自分の後任に佐々木氏を選んだにもかかわらず、13年の社長交代会見の場で2人は言い争いを始めたのだ。

 西田氏は、佐々木氏が経団連会長候補になったことが許せなかった。それがケンカの原因だったといわれている。このように、2人が自分の名誉欲を満足させるために、東芝の経営を踏み台にしていたことが不祥事の原点と著者は言う。そして、彼らに忖度しなければ組織で生きていけないと社員たちに思わせたことが、東芝の経営を狂わせたのだ。著者は現在の東芝社員たちに「上司の指示を受けた時は、必ずそれが『会社のため』になるかどうか、自分の頭で考えて判断しろ」と訴える。この言葉は非常に重い。個々の社員が強くならなければ、経営陣による「経営不祥事」がなくなることはない。

江上剛(えがみ・ごう)1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。77年、旧第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、人事部や広報部を経て、支店長などを歴任。02年に『非情銀行』で作家デビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。

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