政治
Posted on 2026年04月22日 07:15

前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~テレビ朝日・玉川徹の「ユダヤ人差別」放言がもたらした「国益潰し」と「日本の歴史に泥」~

2026年04月22日 07:15

 テレビ朝日の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」の4月10日の放送において、コメンテーターの玉川徹氏(以下、敬称略)は、米国とイランの停戦協議にトランプ大統領の娘婿クシュナー氏が参加したことについて、こう発言した。
「トランプ家の代表として入っているとしか見えないし、ましてやユダヤ人ですよね。このイランとの協議に関してはむしろ、いない方がいいような気がするんですけど」
 一発アウトの発言だ。私が外交官として在勤したアメリカ、英国、豪州であれば、評論家生命を絶たれてしかるべき暴言。ユダヤ人に対する、紛れもない人種差別だからだ。

 コーへン駐日イスラエル大使の抗議書簡とX投稿を受けて、4月15日になってようやくテレビ朝日は公式サイト上で謝罪した。だが「差別的な意図はありませんでした」「説明が不十分」といった空々しい言い訳が、謝罪の真摯さに疑念を抱かせた。
 何よりも、当の発言をした玉川本人がなんら謝罪せず、その後、何事もなかったかのようにテレビ朝日に出て評論を続けている。これに対しては、強い違和感を表明する声がSNSに溢れている。

 外交最前線に身を置いてきた私に言わせれば、玉川発言の愚と罪は大きく分けて、四つもある。
 第一は、ユダヤ人コミュニティーとの関係を甚だしく傷つけたことだ。
 欧米で暮らした日本人なら誰しも経験することだが、往々にして日本人と友達になりやすいのがユダヤ人である。ロンドンのフィンチリーやニューヨ-ク郊外のスカーズデールなどでは、日本人とユダヤ人が肩を並べて暮らしてきた。

 日露戦争の際に日本の戦争資金を工面してくれたシフ氏、大東亜戦争後に日本文学を海外に紹介したドナルド・キーン氏を始め、日本の近現代史の過程で、彼らは大きな役割を果たしてきた。
 杉原千畝や樋口季一郎といった先人は、こうしたユダヤ人の果たしうる役割を認識していたからこそ、同盟国であったナチ独の反ユダヤ主義には加担せず、ホロコーストの惨禍から逃れてきたユダヤ人に救いの手を差し伸べたのだ。

 ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、キャンベラといった私の任地で、日本人外交官には普段は開かない扉を開けて手招きして入れてくれた多くの友人がユダヤ系だったのは、偶然ではない。
 こうした歴史と絆に思いを致せば、玉川発言などできない筈だ。歴史を知らず、ユダヤ人の友人さえいないのだろうか。

コーヘン大使は寛容の精神を示してくれたが…

 第二は、イスラエルとの関係を毀損したことだ。
 2023年10月のハマスによる奇襲攻撃、大量殺人、誘拐を非難するよりも、その後のイスラエルの苛烈なガザ攻撃を糾弾するのに執心してきたのが、日本のオールド・メディア。イランの所業を棚に上げて、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃を「国際法違反」と断罪したがるのも彼等だ。まさに戦後の反戦・平和・護憲に浸り、拝米からコンプレックス溢れる反米に転じ、冷徹に国際関係を見ることができない。こんな有様には本当に暗然とする。

 友人のコーへン大使には、私がレギュラー出演しているインターネットテレビ文化人放送局「銀座で5時」で、思いのたけを述べてもらった。玉川発言は日本人や日本社会を代表するものではないとして、寛容の精神を示してくれたのは有難かった。だが、加えられたダメージが消えてなくなるものではない。

 第三は、米国のトランプ政権との関係だ。
 せっかく高市早苗首相が訪米して周到の準備と配慮により、信頼関係を紡いできた直後の発言だ。国益を毀損して余りある。
 イバンカ・トランプ氏の言動にうかがえるように、クシュナー夫妻は日本ファンであっただけに、無神経にも悪罵を投げつけた短慮は、誠に罪深い。

 そして最後に挙げるべきは、日本の国柄と歴史に泥を塗ったことだ。
 幕末の開国以降、富国強兵を通じて近代化を図る過程で我々の先達が直面したのは、あからさまな人種差別だった。日清・日露両戦争での勝利は日本の力量に一目置かせると同時に、黄禍論、日系移民排斥に象徴される人種差別に繋がった。
 そうした中、ベルサイユ講和会議で国際連盟規約への人種差別撤廃条項の盛り込みに奔走したのが日本だった。そんな日本は東京大空襲、広島・長崎原爆投下で焼け野原となった国土を再建し、非欧米で唯一G7のメンバーとなってきたのみならず、国連安全保障理事会には他国の追随を許さない12回も選出されるほど、重きをなす国となった。

 こうした歩みを支えてきたのが、差別に直面しながらも「なにくそ」「今に見ていろ」という日本人の気概であったはずだ。こうした先人の並々ならぬ労苦に思いを致す時、玉川発言が日本のイメージを損なった大罪が、より明瞭に理解できるだろう。
 一体、単なる無知と不勉強なのか。それとも反日の暗い影を背負っているのか。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年に外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、ワシントン、香港、ジュネーブで在勤。北米二課長、条約課長の後、2007年に茨城県警本部警務部長を経て、09年に在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年に国際情報統括官、経済局長を歴任。20年に駐豪大使に就任し、23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」「高市外交の正念場」(いずれも徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)、「官民軍インテリジェンス」(ワニブックス)、「拝米という病」(ワック)などがある。

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