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記事全文を読む→既存の映画賞に挑戦状!「由々しき事態」を救った本木雅弘の授賞式「観客事件」/大高宏雄の「映画一直線」
筆者が主宰する映画賞に「日本映画プロフェッショナル大賞(略称・日プロ大賞)」がある。その第35回の授賞式が6月20日にテアトル新宿で行われたのだが、すでに35年の歳月が過ぎたことになる。
多くの人が聞き慣れない映画賞だと思うので、遅くなったが、この場を借りて少し説明させていただく。授賞式当日のことではない。
発端は1991年に遡る。本木雅弘主演の「遊びの時間は終らない」という映画があった。俳優として彼の名が一躍、知られた「シコふんじゃった。」より1年前の作品である。
これが非常に面白かった。警察が防犯のために実施した模擬の銀行強盗劇が、思わぬ事態を呼び起こす。本木は犯人として模擬に参加した、生真面目な警官を演じた。
真面目に演じれば演ずるほど、おかしみがにじみ出る本木の演技が圧巻だった。
それまでにも、アイドル映画などには出演していたが、ひと皮剥けたかのような演技の飛躍に、日本映画に「モッくんあり」を強く印象づけたのである。
ところがこの作品は、それほど評価されなかった。最も公平と思われ、権威のある「キネマ旬報」の翌年のランキングでは、かろうじて20位だった。
本作を選者たちが見ているのか、見ていないのかもわからず、既成の映画賞への不満が残った。この「由々しき事態」をなんとかできないか。それならば、自分で映画賞を作ってしまえ。
突拍子もない思いつきだったが、よく行っていた、今はなき銀座シネパトスで、曽根孝友支配人と何気に話しているうちに、突発的に映画賞が「誕生」してしまった。
よし、名称は「日本映画プロフェッショナル大賞」だ。この名称は、その場でいきなり決まった。いささか長いが、しっくりきた。略称は「日プロ大賞」にしよう。
作品も含め、映画のプロ(製作者、監督、俳優)を、映画のプロ(映画評論家、脚本家、劇場支配人、宣伝担当者ら)が選ぶ。ベストテンに入った映画の上映をオールナイトでやったらどうか。だから会場は映画館だ。後先を考えなかった。
ただ、既存の映画賞と同じような選考スタイルでは、似たような結果になる可能性は高い。「遊びの時間は終らない」を、どのような形で「陽の当たる」作品にするか。ここが日プロ大賞の発端なのだ。
そこで、ある手を考えた。既存の映画賞と違うことを目指すのであれば、既存の映画賞で受賞した作品、俳優は外してしまおう。
驚くなかれ、その「手法」が功を奏したのだ。なんと「遊びの時間は終らない」はベストテンの2位にして、本木が主演男優賞、萩庭貞明監督が新人監督賞に決まったのである。
決まったのはいいが、問題はそこからだ。授賞式会場の映画館はどうするか。そもそも本木さんは来てくれるのか。いろいろ動いた。
映画館は80年代に主宰したピンク映画のイベント&上映でお世話になった、かつての新宿名画座を引き継いだ新宿・歌舞伎町の新宿シネパトス(すでに閉館)がOKとなった。
本木さんも来てくれることになった。「遊びの時間は終らない」を企画・製作した日活のプロデューサーの尽力があった。
「遊びの時間は終らない」以外では「真夏の地球」が作品賞と監督賞(村上修)の2賞、主演女優賞は中嶋朋子(「あさってDANCE」)、特別賞は福居ショウジン監督(「Pinocchio√964」)であった。
「モッくんがいる」と気づいた通行人でちょっとした騒ぎに
本木さんには印象深いことがあった。彼は映画館の前にあるビジネスホテル(映画館と同じ系列会社)の1階ロビーで待機してくれた。外から中が見えるので「モッくんがいる」と気づいた通行人が何人もいて、ちょっとした騒ぎになった。
彼は全く動じることなく、静かに座っていた。マネージャーがそこにいたかどうかも覚えていない。一人だったように見えた。この印象が、やけに強烈なのである。浮ついた感じが全くなかった。
当日は観客がまばらだった。ガラガラだったと言っていい。それはそうだ。ネットの発信も限られ、SNSもない。チラシも作らなかった。情報発信はほぼゼロ状態であった。
これに怒った人がいた。本木さんの所属事務所であるフロム・ファーストプロダクションの小口健二社長だ。館内を見渡して憤慨していたと、あとから聞いた。面と向かって言われたわけではないが、あの惨状では、そりゃ憤ると思う。
本木さん、小口社長には本当に申し訳ないことをした。本木さん同様に「意を決して」来ていただいた中嶋朋子さんはじめ他の受賞者の方々に対しても、同じ思いである。もちろん、いきなり赤字であった。
現在、本木雅弘主演の黒沢清監督作品「黒牢城」が公開されている。傑作であった。「遊びの時間は終らない」から35年が経つ。
大きな持ち味である実直な物言い、節度ある態度の中に、織田信長と死を懸けて対峙している武将・荒木村重の苦悩が端々から匂い立ち、新境地を切り開いていた。感無量であった。
日プロ大賞は、本木雅弘から始まったと言って差し支えない。「黒牢城」を見て、過去と現在が一気につながった。本木さん、ありがとう。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)、「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2026年に35回目を迎えた。
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