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Posted on 2026年04月05日 09:30

あなたの隣にいるかもしれない「異様な香川照之」の「面相」/大高宏雄の「映画一直線」

2026年04月05日 09:30

 公開以降、静かにヒットしている邦画がある。香川照之主演の「災 劇場版」だ。群を抜いた面白さを持つ。そしてこの面白さが、じわり伝わっている。大推薦したい。

 千葉、宮城、石川、福岡、神奈川など、いくつかの地域が舞台になる。しだいに時間軸が違うことがわかってくる。そこで人の死にかかわるあることが起こる。
 どの地域にも、香川扮する、ある男が現れる。そのことがわかり始めた時点で、作品は一段とグロテスクな相貌を帯びていく。
 香川は変幻自在である。数々の「面相」を、鮮やかに演じてみせる。その多面的な面妖さの衝迫力において、少し早いが、本作の香川は、今年の主演男優賞の有力候補となろう。

 ある港近くの飲食店従業員(安達祐実)、母親と2人暮らしの女子高校生(中島セリ)、老舗旅館の主人(じろう)、運送業の従業員(松田龍平)、モールの清掃員(内田慈)らのエピソードが綴られていく。
 香川の近づき方、現れ方はバラバラだ。夫がいなくなっているらしい飲食店の従業員には、ガラス越しの素性不詳男。進路やお金で苦労している女子高校生には、心優しそうに見える塾講師。経営が厳しく、妻と別居している老舗の旅館主人には、意味ありげな出入りの業者。
 さらに事故で運転を禁じられている運送業者には、親しみやすい同僚。ゴミの分別にこだわるモールの清掃員には、周辺で働く熟練の理容師。

 皆、内面に不安定要素を抱えている。その象徴がタバコである。女子高校生を除いて、全員がタバコを吸っている。マリファナを吸っている人もいる。
 なぜ、タバコを吸うのか。不安の表れだろう。あるいは、不安を解消するためであろう。タバコはなんらかの危険信号である。

「意味不明」にゾクゾク!男は本当に実在するのか…

 5人の不安定さの隙間に、男(と、その影)が入り込んでくる。特に接触が濃厚なのは女子高校生、旅館主人、運送業者である。香川の登場シーンが多いから、面妖さが一段と色濃くなる。
 清掃員の場面も、他の4人とは現れ方は違うが、かなり強烈な人物として映り込んでいる。香川は自身の個性をベースに、全て役になりきってしまう。
 人の死に、男はどう関わっているのか。あるいは、関わっていないのか。細部を律儀にこねくり回して辻褄合わせをしていくと、逆に作品の手中にはまってしまう。

 映画は、男と先の人たちとの間に見え隠れする、ある「関与」をほのめかしているに過ぎない。この「関与」は明快さを欠く。だから、その意味不明さにゾクゾクする。
 男が本当に実在するのかも含めて、わからない部分はそのままでいい。その時、タイトルにある「災」(さい、わざわい)という意味合いが浮上するのが、本作の周到な魂胆である。

 そして終わり方が卓抜だ。各地域で起こる連続的な出来事に、ある共通した犯罪の匂いを嗅ぐ警察官(中村アン)に対し、アクションを起こす人が登場する。その人物とは、いったい誰か。
「災」の化身か、香川がこの世の「不条理」のど真ん中、異様な立ち姿で忍び寄ってくる。あなたの隣に、香川照之がいるかもしれない。

(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)、「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2026年に35回目を迎える。

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