エンタメ

早世のマドンナたち⑥ 太地喜和子 親友カルーセル麻紀が見た水没死直前の予兆(6)

ホテルの前で勝新にせがんだ

 加藤は映画では「獄門島」(77年/東宝)で、舞台は文学座デビューから最期の日まで、幾度となく共演を重ねた。

「あいつは台本や演出に対する好き嫌いが強いから、イヤだったら『病気になった』とか言って、ハナから出ない。その代わり、入れ込んだら命がけだったな」

 その最たる例に、舞台で共演した「雁の寺」がある。加藤が接する日頃の喜和子は、ひたすら酒好きで、酔えば胸をはだけるような性格で、楽屋ではスッピンで過ごしている。

「ふだんはちっともどうこうと思わないのに、あの舞台では熟女の豊満な色気が漂ってくるんだよ。同じ舞台にいながら、どうかしたくなったくらいだ」

 そんな喜和子の女優魂には、多くの役者たちが共鳴した。とりわけ勝新太郎は、ライフワークの「座頭市」に何度も招いただけでなく、喜和子が京都に来るたび、祇園の座敷へ案内した。そこに居合わせた芸者や舞妓は、同性でありながら、誰もが喜和子に惚れたという。さらに酒豪で鳴る喜和子と勝新は店がハネても飲み足りず、決まって喜和子がホテルの前で勝新にせがんだ。

「ウチの部屋で飲まない?何にもしないからさ」

 加藤は喜和子の言い草に、それは男のセリフだろうと苦笑した。

「喜和子の葬儀は文学座の稽古場でやったんだけど、お棺の横に舞台で使った三味線を並べていた。勝さんはそれを手にすると、いつまでも弾いていたのが印象的。それだけ喜和子に入れ込んでいたんだな」

 喜和子の最終章となる「唐人お吉ものがたり」は、92年8月13日の三越劇場から幕を切った。数々の名作をこなしてきた喜和子だが、この役への没頭ぶりは尋常ではなかった。加藤はアメリカの総領事という設定もあって、さほどセリフの多い役ではないのだが、稽古には「皆勤」を強いられたと言う。

「普通は自分の番だけ立ち会えばいいんだが、俺には最初から最後までずっと見て、あれこれ意見を言えって命令するんだよ。さらに、通し稽古が終わって、個別でやるのを『抜き稽古』って言うんだけど、それも見ていろと言う。台本は喜和子の書き込みでまっ黒けになっているし、拘束時間は長いしで大変だったよ」

 加藤の目には、喜和子の消耗が見て取れた。糖尿や緑内障で失明の危機もあり、どこかで「これが最後」と予感しているようにも見えた。やがて公演が始まると、幕の合間にも加藤をそばに来させ、着替えながらアドバイスをメモするほどの集中力を見せた。

 10月12日に静岡・伊東市の公演を終え、翌13日はモデルとなったお吉が生まれ、また入水自殺をした下田での公演が待っていた。しかし、その幕が開くことはなく、喜和子は車ごと夜明けの海に沈んでしまったのである。享年はお吉と同じ48歳だった。

「今でも伊東で公演があると、俺たちは海にお酒を流してお参りするんだよ」

 女優であることにすべてを捧げた女は、それが宿命だったのだろうか──。

カテゴリー: エンタメ   タグ:   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【戦慄秘話】「山一抗争」をめぐる記事で梅宮辰夫が激怒説教「こんなの、殺されちゃうよ!」
2
神宮球場「価格変動制チケット」が試合中に500円で叩き売り!1万2000円で事前購入した人の心中は…
3
永野芽郁の二股不倫スキャンダルが「キャスター」に及ぼす「大幅書き換え」の緊急対策
4
巨人で埋もれる「3軍落ち」浅野翔吾と阿部監督と合わない秋広優人の先行き
5
「これは…何をやってるんですかね」解説者がア然となった「9回二死満塁で投手前バント」中日選手の「超奇策」