社会

知られざるニッポン秘薬・伝統薬めぐり(1)コレラから日本を救った

 日本最古の胃腸薬をご存じか。それこそは、14世紀初頭に創製された「三光丸」。「効く」と評判を集め、気がつけば700年──今も地域の人々に愛されている。日本全国を見渡せば、生薬を原料とした「秘薬」「伝統薬」がまだまだあった。外国人観光客も買いあさるメイド・イン・ニッポンを徹底紹介する。

 今年が開基1080年という成田山新勝寺(真言宗智山派総本山)。その参道は平日にもかかわらず、多くの参拝者や観光客でにぎわっていた。

 外国人観光客の姿も多い。この参道の新勝寺そばに蔵造りの店舗を構えるのが「成田山一粒丸(いちりゅうがん)」を販売している三橋薬局だ。

 元禄年間(1688~1704)の創業と言われており、初代の叶屋勘兵衛が、京都で御殿医を務めていた兄・三橋監物から処方を伝授され、製造・販売したのが始まりと伝えられている。建物も平成22年(2010)に国の登録有形文化財に指定された。

 三橋家には、文政6年(1823)に薬業界の家元とも言える「嵯峨御所」の渡辺安房守が「一粒丸」の認可を与えたとする古文書も残っている。

 一粒丸は当時から「五臓六腑に効く万能薬」として愛用され、特に道中薬として重宝されていた。かつての旅に食あたりや水あたりは付きもので、命を落とす者も少なくなかったが、一粒丸は多くの旅人を救った。

 さらに、成田山新勝寺で修行したことがある二宮尊徳(二宮金治郎)が、自分の教えを薬の効き目に例えて「神儒仏正味一粒丸」と説いて評判が立つと、成田山土産として売れに売れたのだ。

 すると、「一粒丸」の類似品を旅人に売りつける偽業者が参道に続出し、注意書きが出たほど。現在は“本家”三橋薬局の「一粒丸」のみが残った。

 近年になって薬事法が変わり、以前のように手作りというわけにはいかないが、厚生労働省認可のもとで製造販売を行っている。

 三橋薬局九代目当主で薬剤師の三橋恒子氏は言う。

「効能・効果には食あたり、水あたりとうたっていますが、ストレスからくる胃炎や胃潰瘍にも効果があるようです。また、飲むと気持ちが落ち着くという方も多いですね。原料にもこだわり、作る工程にもこだわり、できるかぎり昔のままの“一粒丸”を残したい。その一心で頑張っています」

 チョウジ、ケイヒ、オウバク、アセンヤク、ヨウバイヒなど13種の生薬から成る一粒丸。手間もコストもかかる伝統薬だが、遠方からも客が訪れる。

「一粒丸を求めに来られて、ついでにお寺に参るという方もいます。また、『テレビを見て』『インターネットで知って』『使った人に聞いて』という海外の方も増えていますね。フランスやドイツなどのヨーロッパの方や東南アジアの方が多い。台湾や香港のお金に余裕がある方も、いいものだとわかって求めに来られて、長く使っていただいています」(三橋氏)

 歴史ある日本の伝統薬は、海外にも広まりつつある。

 その足で向かったのは東京・上野。池之端にある「守田治兵衛商店」の創業は延宝8年(1680)というから、徳川綱吉が第五代将軍になった年だ。

 創業者の初代守田治兵衛は摂津国(現大阪府)から江戸に出てきて薬業を始め、以来、現在の十三代目まで続く江戸最古の薬舗。ここで販売されるのが「宝丹」だ。

 効能に「胃もたれ、はきけ、胸やけ、飲みすぎ、食べすぎ、嘔吐」とあるが、この薬が誕生したのは日本中で「コロリ」(コレラ)が流行し、多くの死者を出した文久年間(1861~1864)。オランダ医師の方剤にヒントを得て作られると、その予防・応急処置に大きな効果を発揮した。明治3年(1870)にそれまで自由に販売できていた売薬が許可制になった際、「宝丹」はその官許売薬第1号になったのだ。

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