芸能

異端発掘!ニッポン「ロック革命的名盤」/東洋思想と精神世界観「ファーラウト」の早すぎた実験的サウンド

 ベルベット・アンダーグラウンドの「バナナ」や、ピンク・フロイドの「見返り乳牛」に匹敵する、ロープに洗濯ばさみで吊るされた軍手のジャケット。タイトルもバンド名もなし。それが、73年にコロムビアからリリースされた「ファーラウト」唯一のアルバム「日本人」だ。

 ファーラウトとは、マリファナを吸い、サイケデリック・ミュージックを聴いていたヒッピーたちの間で、ドラッグにより引き起こされる「飛ぶ」という現象のスラング。

 そんなバンド名で、リーダーの宮下文夫(vo)を中心に、元頭脳警察の左右栄一(g)、石川恵(b)、前田トミオ(dr)によって71年に結成。彼らは当初、ブリティッシュ・ハードロックに傾倒していた。

 だが宮下が、元ランチャーズのギタリストで琵琶奏者に転向した喜多嶋修とのコラボ・アルバム「新中国」制作に参加したことで、徐々に「東洋思想」を好むようになり、それが明確に打ち出されたのが、ピンク・フロイドの「おせっかい」や、ムーディー・ブルースの「夢幻」を彷彿させる、A面「Too Many People」、B面「日本人」の2曲のみで構成された、このアルバムだった。

 両曲とも、スペイシーなサイケデリック・ロック・サウンドが展開される、20分弱の長尺。宮下のヴォーカルとムーグに絡み合う、左右のフリーキーなギター。ドラムスが前田からアライ・マナミにスイッチされ、さらに「新中国」の同志たる喜多嶋修と、フラワー・トラベリン・バンドのジョー山中がゲスト参加したことで、より精神世界観を意識した作りになっている。

 彼らの中で起こった化学反応によって、タンジェリン・ドリームやクラウス・シュルツらのジャーマン・ロック・アーティストが試みた実験的な音作りに、東洋的なメロディーが加わることとなり、それが当時の日本ロック界にファーラウトという比類なきバンドを形成させることになったのである。

 しかしなにぶん、現れる時代が早すぎた。

 ファーラウトはこのアルバムをリリース後、メンバーチェンジを経て、74年夏の日本最大のロック・コンサート「ワン・ステップ・フェスティバル」に参加するも、音楽的方向を決められぬまま、解散。

 その後、宮下は東洋的なコンセプトをさらに発展させるべく、伊藤明、高橋正明(後の喜多郎)らと、ファー・イースト・ファミリー・バンドを結成。日本におけるスペース・ミュージックを欧米に知らしめていくことになる。

(山川敦司)

1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。

カテゴリー: 芸能   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    「王座戦」初防衛に王手をかけた「鬼神・藤井聡太」の勝利の方程式は「パイナップル・キノコ抜き・室温20度」

    いくら漫画でも、こんな展開は描けない。将棋の第72期王座戦5番勝負第2局が9月18日、名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルで行われ、午前9時の対局開始からわずか30分で76手まで進む「AI超速将棋」を藤井聡太七冠が制して2連勝。王座戦初…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
派兵10万人超に!万単位の前線戦死者続出で「金正恩斬首クーデター」が勃発/北朝鮮「ウクライナ大派兵」の断末魔【後編】
2
あぁ牧秀悟が…下剋上「日本シリーズ進出」DeNAに巨人ファンの恨み節が止まらない「2020年のドラフト会議」
3
強制収容所より恐ろしい「北朝鮮将校6名爆死」で前線から兵士が逃げ出した/北朝鮮「ウクライナ大派兵」の断末魔【前編】
4
49戦して21敗「戦国最弱大名」は生涯落城経験9回の「弱い方のオダ」
5
オリックス監督を退任した中嶋聡が「日本ハムの次の監督候補」に加わった「過去の恩義」