社会

75歳病院院長が45歳年下妻を射殺した深層心理に迫る(3)病院経営も苦しく…

 結婚当時の前妻も20代、その後熱を上げた「婚約者」も20代、そして亜耶乃さんも結婚当時は27歳‥‥。そんな年齢差のある若い女性との夫婦生活にこだわった松本さんだが、最愛の母親を亡くしたことが、無理心中の引き金となったのか。それとも冒頭の証言のように、妻となったはずの亜耶乃さんに「別の男性の影」を感じ取ったのか。

 その一方で、松本さんの金銭問題が惨劇の背景にあったという見方もある。

「救急指定病院として患者を受け入れるのも、銀行からお金を借りる時のために、病院として救急患者数の“実績”を作りたかったからのようです。前に、『最近は大学病院に患者さんが流れてしまう』とボヤいていましたから」(病院関係者)

 実際、病院経営は順風満帆ではなかったようだ。98年1月には、「看護師のボーナス」を巡ってトラブルを起こしている。

「看護師が患者から受け取った菓子やウーロン茶を勝手に飲食したので『ボーナスを受け取る資格がない』として、松本院長がボーナス返還を看護師に求めたため、看護師が労働基準監督署に是正措置を届け出たんです」(社会部記者)

 その数日後にはさらなる批判にさらされる事態にも直面した。

「医師にしか許されていない動脈からの採血や、レントゲン撮影の時に行う造影剤投与など、資格外の医療行為が日常的に行われている疑いが生じた。日本医療労働組合連合会から県衛生部に調査と改善を求める申し入れがありました」(社会部記者)

 それから病院の体質は徐徐に改善されていったが、病院経営は依然として苦しいままだったようだ。

 元警視庁刑事で犯罪学者の北芝健氏は、今回の事件の動機について、こう分析する。

「医者が優秀なDNAを残すために、健康な母体を求め、年の離れた若い女性を好むというケースは、海外では珍しくありません。もし、前妻との離婚の原因に母親が関係しているなら、幼少期に極端にかわいがられたことで、依存が強くなったのでしょう。母親が亡くなったことで依存するよりどころがなくなり、孤独を感じるようになる。だが、1人で死ぬことができない。それで妻を道連れに自殺した可能性も考えられます」

 86年に発売された仏教学者・紀野一義氏の著書「心が疲れたとき読む本」(PHP研究所)の中で、紀野氏が、心を打たれた医師として、当時44歳だった松本さんが紀野氏に送った手紙が紹介されている。

〈死を前にした不治の病ではあっても、人間としてはやはり、わずか一握りの希望でも残されている限り、最後迄、治る事を願って、無力ながらも、最後の力を振り絞ります。止まりそうになる心臓も、もうダメだと分かっていても、二時間も三時間ももみ続け、DCショックをかけ、心臓を蘇生させては、ハートスコープに残る心電図の残像が最後の鼓動の一拍になる迄蘇生を続けます〉

 これほど熱い気持ちで患者の「生死」と向き合った医師が、若妻を巻き込んでの自殺という最期を選んでしまうとは、何ともやりきれない話である。

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