社会

女体模型の製造を請け負ったのは「義足を作る医療器具業者」だった/「南極1号2号」開発秘史(3)

 第1次南極越冬隊の男性隊員用の玩具、いわゆる「南極1号2号」の正式名称は「保温洗浄式人体模型」と決まり、担当事務官による大真面目にして詳細な「仕様書」も作成された。が、次なる大問題として浮上してきたのが「誰に製造を依頼するか」だった。

 なにしろ当時、この手の玩具を製造している業者は皆無。新田次郎の実録的小説「氷葬」にも、そのあたりの事情が次のように描かれている。

〈そういう種類のものは、横浜に製造するところがあるというので、業者を通じて調べたが、探し出すことはできなかった。どうやら、そのようなものを作ったことは、未だかつてないことのように思われた。一般人形製造業者の出る幕ではなかった。大企業、中小企業が製作図面を引くような品物ではなかった〉

 そんな中、新田によれば、義足を作る医療器具業者に白羽の矢が立てられたという。

 だが、東京・本郷界隈にある医療器具業者を訪ねても、首をタテに振るところはなかった。中にはこんな仕事を持ち込まれて怒り出す業者もいたというが、5軒目の業者が担当事務官の困り果てた顔を見て、ようやく製造依頼に応じてくれたという。

 ただし、これには東京・浅草橋にある人形問屋が製造を引き受けた、との異説もある。真相は定かではないが、浅草橋の人形問屋が注文に応じた後、本郷の医療器具業者に製造を依頼したのではないかと、筆者は推測している。その人形問屋があくまでも問屋であった場合、人形の製造は専門の業者に回すことになるからだ。

 いずれにせよ、次に問題となるのは金額だった。新田も「氷葬」の中で〈ものがものだけにいくらかかるか見当がつかなかった〉と書いている。

 その金額をめぐっては、浅草橋の人形問屋は1体5万円、2体合計10万円で注文に応じたとの指摘もある。一方、新田によれば、本郷の医療器具業者は1体1万9000円、2体合計3万8000円で製造を引き受けたとされている。

 仮に筆者の推測が当たっているとすれば、その差額は6万2000円にも上ることになる。時に1956年(昭和31年)。当時であればあながち、ありえない話ではない。

 ちなみに新田によれば、製造を引き受けた医療器具業者は、明治初年からの業績を誇る老舗だったという。(文中敬称略。つづく)

(石森巌)

カテゴリー: 社会   タグ: , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<マイクロスリ―プ>意識はあっても脳は強制終了の状態!?

    338173

    昼間に居眠りをしてしまう─。もしかしたら「マイクロスリープ」かもしれない。これは日中、覚醒している時に数秒間眠ってしまう現象だ。瞬間的な睡眠のため、自身に眠ったという感覚はないが、その瞬間の脳波は覚醒時とは異なり、睡眠に入っている状態である…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<紫外線対策>目の角膜にダメージ 白内障の危険も!?

    337752

    日差しにも初夏の気配を感じるこれからの季節は「紫外線」に注意が必要だ。紫外線は4月から強まり、7月にピークを迎える。野外イベントなど外出する機会も増える時期でもあるので、万全の対策を心がけたい。中年以上の男性は「日焼けした肌こそ男らしさの象…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<四十肩・五十肩>吊り革をつかむ時に肩が上がらない‥‥

    337241

    最近、肩が上がらない─。もしかしたら「四十肩・五十肩」かもしれない。これは肩の関節痛である肩関節周囲炎で、肩を高く上げたり水平に保つことが困難になる。40代で発症すれば「四十肩」、50代で発症すれば「五十肩」と年齢によって呼び名が変わるだけ…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
【戦慄秘話】「山一抗争」をめぐる記事で梅宮辰夫が激怒説教「こんなの、殺されちゃうよ!」
2
神宮球場「価格変動制チケット」が試合中に500円で叩き売り!1万2000円で事前購入した人の心中は…
3
永野芽郁の二股不倫スキャンダルが「キャスター」に及ぼす「大幅書き換え」の緊急対策
4
巨人で埋もれる「3軍落ち」浅野翔吾と阿部監督と合わない秋広優人の先行き
5
「これは…何をやってるんですかね」解説者がア然となった「9回二死満塁で投手前バント」中日選手の「超奇策」